「氷山の一角」馬三家からの手紙 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
氷山の一角
法輪功弾圧についての、もっと全般的なドキュメンタリーかと思ったが、孫毅という一人の男の話であった。
自分としては、肩すかしを食った感じであったが、内容は素晴らしい。
孫毅は90年代の終わりに、法輪功に興味を持って活動を始めるが、非合法の出版活動により、2008年に2年半の刑を宣告されて、「馬三家 労働教養所」に収監される。
「馬三家からの手紙」が公になったのは、既に孫が2010年に釈放された後だった・・・というところから作品が始まる。
自らが受けた拷問のようすも含め、「馬三家 労働教養所」での様子は、白黒アニメによる再現映像で示される。
当時の看守のインタビュー、オレゴン州の主婦との対面もある。
孫毅も一時は平穏な生活を取り戻すが、その後、状況は暗転する。
結局最後は、孫毅が予言した通りの、恐れていたことが起きて映画が終わる。
実際には、もっと酷い拷問や、「臓器狩り」さえもあったと言われているので、本作品は“氷山の一角”だ。
国家転覆的なものがなくても、共産党よりも勢力が大きくなれば(共産党員は6000千万人らしい)、非合法活動とみなされる独裁支配。
「労働教養所」は、2013年に表向きは“廃止”されるが、機密性が高まっただけで、例えば「新疆ウイグル自治区」の惨状は周知の通りである。
この作品を見て、2つ感じることがあった。
一つは、誇張のない等身大のドキュメンタリーということだ。
孫毅に徹底して密着するのであるが(撮影は自撮りらしい)、その取材に十分応える立派な人物であることが、本作品を素晴らしいものにしている。
静かで穏やかな知性的な男であるが、元看守に「孫が一番強かった」と言わしめるほどに信念が強い。
もう一つは、おそらく、タイミング良く作られた作品だということ。
ここ数年は、とみに自信をつけて、国際社会の批判をはね付けて進む中国政府。
この映画は、当局に対して秘密裏に制作されていたようだが、孫毅の身辺だけでなく、インタビューを受けた元看守は大丈夫だろうかと心配になってしまう。
「ウイグルからの手紙」は、いつか世界に届くだろうか?