「不運に見舞われた過去に対する無慈悲が拭いされない世界で慎ましやかに暮らす女性の生き様に寄り添う力強い作品」モロッコ、彼女たちの朝 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
不運に見舞われた過去に対する無慈悲が拭いされない世界で慎ましやかに暮らす女性の生き様に寄り添う力強い作品
カサブランカの街を仕事と宿を求めて彷徨い歩く身重のサミア。元美容師だが臨月のお腹を抱えて住む家もない身ではどこを訪ねても門前払い。パン屋を営むアブラもサミアを追い払うが一人娘のワルダにせがまれたこともあって仕方なく家に招き入れる。天真爛漫な少女のワルダはすぐにサミアに懐くがアブラはサミアに心を開こうとせずぎこちない共同生活を続けていたある日、せめてもの恩返しにとサミアが作ったモロッコ伝統のパンケーキ、ルジザを店で出してみたところ常連客の間で評判になり慎ましい生活にささやかな光が差し込むが・・・。
舞台となっているのはほぼアブラの家の中だけ。ポスタービジュアルに滲んでいるような明るさもほとんど映らない。直接描かれないものの彼女達の周りにあるのはイスラム教世界に漂う無慈悲。シングルマザーのアブラもこれから未婚の母になろうとするサミアもそれがどうにもならないことを知っているからこそ子供達が自分よりも幸福になることを何よりも願っている。それゆえにサミアは頑なにある決意にしがみつく様がどうしようになく痛々しいです。マリヤム・トゥザニ監督は家族で未婚の妊婦の世話をした思い出を元に本作を撮ったとのこと。誰にも語れない過去を持つサミアに無邪気に絡みこれから生まれてくる赤ちゃんに興味津々のワルダの姿は当時の監督自身の気持ちがしっかり滲んでいるように見えました。凄惨な描写もない地味なドラマですがそこに漂う不穏な空気がしっかりと捉えられた力強い作品です。
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