劇場公開日 2021年8月13日

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「カサブランカから産声が聞こえる。」モロッコ、彼女たちの朝 はるたろうさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0カサブランカから産声が聞こえる。

2021年8月19日
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鑑賞方法:映画館

人生初のモロッコ映画。土壁とレンガ。ちょっとスモーキーな雰囲気と入り組んだ迷路のような街並み。あまり目にする機会のないモロッコの景色とそこで暮らす人々の日常が新鮮でした。

最大都市カサブランカで出会う2人の女性に光をあてた良作。大きなお腹で仕事を探しながら街を彷徨うサミア。一人娘ワルダを育てながらパン屋を営む未亡人アブラ。男尊女卑の思想が今なお根強いイスラム教では未婚のまま妊娠すればたちまち居場所を失ってしまう。あるきっかけで渋々サミアを居候させることになったアブラ。

強く美しく実直で神経質な女性アブラ。心を閉ざしているかのようにも見えるが彼女もまた深い悲しみを胸に秘めている。女性というだけで公然と差別される社会。共鳴し合う2人。それは母性がそうさせたのかもしれない。お祭りのシーンは唯一ほっこりできた。なによりワルダがずっと無邪気な天使のようでかわいい。

産まれたばかりの我が子の顔すらまともに見ることができない後ろめたさ。不甲斐なさ。一瞬ヒヤッとする場面があって背筋が凍った。そして観る側に委ねられたその後の物語。

「子供を渡してはいけない。物のように扱われる」これは紛れもなく同じ時代を生きる女性から発せられた言葉。その現実を遠く日本でしっかり受け止めたいと思った。

はるたろう