「アメリカでは、スタインベックは10代の必読書、だそうです」パブリック 図書館の奇跡 グレシャムの法則さんの映画レビュー(感想・評価)
アメリカでは、スタインベックは10代の必読書、だそうです
図書館を占拠!という一見派手な事件のはずなのに、全体を通して、静かで、非暴力に徹した語り口となっています。
〝交渉人〟が出てくるけれども、これまでのアクションやサスペンス映画とは違い、唸るような丁々発止のやり取りがあるわけでもありません。
もちろん、銃撃戦や乱闘シーンなどもありません。
唯一、〝武器〟らしきものを挙げるとすれば、スタインベック『怒りの葡萄』からの一節を朗読したことくらいです(ページを開いてなかったから、暗唱といった方が正しいかも)。
スチュアートに親しみを覚え、陰から支える女性2人。両人ともドラマ的な展開としてはどちらかというと〝薄い〟関わりなのに、スチュアートとの信頼関係やメディアへのひとくさりの皮肉はしっかりと作品のスパイスとして伝わってきました。
(下半身はさらけ出していたけれど)隠し味のように効いたのが、The Public責任者としての館長の矜持と信念に基づく行動でした。
図書館通いが日常化しているホームレスたちは、物事に対応する方法として、疑問があれば、図書館員に聞く、ネットで調べる、資料や本にあたる、そして自分で読んだり見つけたりしたことは意外と身についているし、自分で分かることそのものに喜びがある、ということがなんとなく経験的に分かっているように見えました。
そういう人たちだからこそ、いきなり暴力的な手段で人目を引くのではなく、静かな怒りを時間をかけて訴える方法を選んだ、ということなのだと思います。
国際政治の舞台であろうが、身近な人間関係であろうが、何事につけ、直情的、短絡的、暴力的な側が勢いを得ることが多い昨今の世の中に対して、思ったより強烈なパンチを、浴びせてくる作品でした。
※ホームレスに退役軍人が多いという話は、前にもどこかで読んだことがありましたが、この作品でも触れられていました。イラク戦争やアフガンなどの社会的後遺症は相当に根が深い問題なのだと改めて認識することとなりました。