「カントリーマアム」ワイルド・ローズ 梨剥く侍さんの映画レビュー(感想・評価)
カントリーマアム
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主人公のやさぐれた言動の連続に、「ローズ」や「ジュディ」の記憶が甦ってきて、またぞろミュージシャンが破滅していく話かと思いきや、さにあらず。かと言って、定番の「スタア誕生」物語へも極力寄せず、BBCのお偉いさんに気に入られてデビューするでもなく、豪邸でのチャリティーライヴで成功するでもなく、ナッシュビルのゲリラ歌唱で一躍脚光を浴びるのでもない。少しずつ想定を外して、ほど良く地に足のついたエンディングへと導いていく。
20年パン屋で働いてきたという母親の吐露がとりわけ胸を打つ。主人公の子どもとのぎごちない接し方もせつない。英国では犯罪歴のある人間に皆GPS付きの足輪をはめるのだろうか。近頃何かにつけて彼の国の労働者階級のやるせなさを映画で目にする機会が多い。
ナッシュビルのライマン公会堂での歌からラストのグラスゴーのステージでの歌まで、不覚にも涙が止まらなくなった。たぶん、それは物語と言うよりは歌の力のなせる技だ。この映画で圧倒的な歌唱を披露したジェシー・バックリーが、次作の音楽映画では完全に裏方役に徹しているのも意外だ。
グラスゴーというと、この街出身のバンド、ディーコン・ブルーのファースト・アルバム“RAINTOWN”のジャケットが思い浮かぶ。すすけたような工業都市にカントリーは似合わない気がするけど、その片隅で歌い続けるローズにはエールを送りたい。
p.s.ロバート・アルトマン監督の「ナッシュビル」は、ミュージシャンたちが共和党の大統領候補のキャンペーンに巻き込まれていく話。時節柄、今見ると別の感慨があるかも。
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