劇場公開日 2020年7月10日

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「原作からの改変点は悪くなかった。が……」私がモテてどうすんだ しーぷまんさんの映画レビュー(感想・評価)

1.5原作からの改変点は悪くなかった。が……

2020年7月30日
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鑑賞方法:映画館

楽しい

単純

寝られる

※長文になりますのでご注意下さい。
このタイトルにはアニメから入ったものです。
また、この映画の公開に合わせて原作を読破しました。

初めに言っておきますが、私は映画化や実写化に合わせて漫画作品(特にアメコミのような一冊で完結するものではなく、日本の連載漫画のような作品)はある程度改変すべきだという意見です。

なぜなら、

1.単純に長過ぎて2時間(あるいは100分)前後に落とし込めないから
2.連載漫画は連載スタート〜完結まで全ての要素が決まっていない事が多く、初めから全ての道筋を立てて作る(その中でどんどんブラッシュアップしていく)映画とは作り方から根本的に違うから

です。
要するに「漫画を実写化する事自体かなり考えて作らなければならない」と思っている人間です。

その意味で今回の実写映画化に関して大きくアレンジされている点が多かったと思いますが、それ自体は良いところもあったと思います。
…で、なんで星2以下なのかというと、単純に「映画としての作り込み」が甘いからです。
「漫画を実写化する上での作り込み」ではありません。

主に演出の詰めが甘い。

まずは冒頭でのミュージカル調のオープニング。
これはダンスのキレや小道具と長回しで見せる演出はかなり見応えがありました。
が、主要キャラであるイケメン4人が棒立ち。
ちょっと格好つけるけど圧倒的棒立ちが目立ち過ぎる。

このメンツなら踊りもある程度できるわけだし、
棒立ちさせたいならここはMV風に、
「イケメン1人ずつの全体像を正面からはっきり見せて、それぞれのキャラがニュアンスで伝わるようなポーズをさせて、バックダンサーはそれを際立たせる振り付けを順番に4パターン踊らせる」
とかにしないと全く格好よく見えないでしょう。
せっかくのイケメンがバックダンサーや主人公の見切れたダンスに遮られて台無しでした。

さらにこのダンスシーンの終わりの方、円形で踊ってるのにある場所だけ誰もおらず、それをハッキリ映してしまいます。
「あー最後はそこにカメラ置いて主要キャストそこに集めて撮って次のカットに行くんだなぁ…」ってのがバレバレ。

長回しでも無かったわけだしそこは隙間無く埋めた上でクレーンで撮影しましょうよ……

この少し前のCGを使ったハートが出てくるシーンも、「ギャグシーン」として使うならこの先ももっと多用して面白おかしくギャグシーンを盛り込むべきでしょう。
他にこういう「ギャグですよ〜」っていう使われ方をする合成シーンは「今時どうか」と思うニコニコ風の弾幕と乙女ゲーのような選択肢くらいで中途半端過ぎ。
(乙女ゲーの選択肢としてもどうかと思う選択肢ですが……普通はキャラの名前じゃなくて「〇〇が食べたい」という形で選択して、そのキャラとのイベントスタートしますよね?)

あとこれは全体を通して気になったのが、
無駄に長いカット。

アニメイトのシーンはニコニコ風弾幕の件含めかなり苦痛でした。
原作では(ニコニコ風弾幕はありませんが)このエピソードは、5人で映画に行くところから始まり、いくつかのデートスポットを転々としている中で主人公が自分のオタク的な側面を隠そうとしたんだけど……という流れです。
ここを映画館・カラオケ店・プリクラまとめてカットしてタイトにしたのは良い発想だと思ったんです。
「原作では複数あったものをひとつのシーンに絞って映画的にタイトに落とし込む」というところまでは良かったのですが、そのくせ原作のそのシーンにある要素を馬鹿みたいに詰め込んで説明の必要性が出てしまい、結果原作より冗長になってしまいましたね。

アニメイトの前のイケメン4人登場シーン。
スローでこんなに長ったらしく映すくらいならもっとキャラクターの個性(性格や背景)の描写を入れて、観客に感情移入させる工夫をするべきでしたね。

他にも演劇部での叫びのシーンや、イケメンの1人と、そのイケメンに未練があるとある女性との喫茶店での会話シーン。
……無駄に長い。
ある場面のカメラがグラッグラ揺れてるのも気になりました。
あとエンドロール後のおまけも同じようなNGシーン集とかなのにやたら長い。

あとはセリフでしょうか?
演技というよりセリフですね。
俳優さん達の演技は(六見役の吉野さん以外)「全然良いじゃん!」って思ったシーンありました。
六見役の吉野さんの演技が「あれ…」って思うのは、クドくて長ったらしいセリフ回しです。
その意味で損してるのは主人公(特に山口さんのパート)のシーンも同様ですね。
ハッキリ言うと「独り言が多過ぎ」これに尽きます。
「悩むシーンとかため息だけで良いじゃん。後から説明入るんだからさぁ……」
とかずっっと思ってました。

他のキャラクターも喋ってる時に動きが少ない。
琴葉役の優希さんの所なんかかなり説明口調だし動かさないし……あと劇中劇の演技を「上手く見せる」っていうのには残念ながらクリア出来てなかったと思います。

また、台詞の説得力も所々で欠いてるのが惜しいですね。
仁科のキャラクターを変えたまでは良しとして、
彼女がクライマックスでいう台詞「演劇部が廃部になったら父に叱られる」……え?父親の寄付金に見合う活動を各部活がしてるか監査してるんじゃなかったの?(しかもそれ寄付金じゃなくてただのスポンサー投資だし学校運営として問題では?)

そしてクライマックスのメッセージ性。
主人公にとってBLというのは一種の「逃避(妄想から来る理想郷)」だったわけです。
これは原作からこの実写作品も同じように描いています。
が、この演劇のシーンの「アレ」で締めてしまうと結局「逃避の先に描いていた理想の世界は、自分が(ルックスの力で)望めば現実になってしまう」という原作とは真逆かつとんでもなく不誠実なメッセージになってしまいましたね。
(原作だと「王子様の隣には王子様」という言葉はあくまで劇中内作品で楽しむ物であって、現実の人を好きになる事とは別だという結論に至ります。)

イケメン4人との行方は原作にも(クイズとかいうしょうもない感じではなく、主人公特有のオタク的思考で行われるゲームですが)中盤で出てくるエピソードで、うまく簡略化した上で原作と同じ着地にしているのでまあ良いとしましょう。
しかしこのせいで嫌な役成分多くなってしまった琴葉先輩……

と、まあダラダラと話しましたが、
これでもまだ挙げてない気になる要素がいっぱいです。
そしてこの原作は元々かなり歪な要素(少女マンガやBL要素を俯瞰した視点で笑いにする「あるあるネタギャグ」であったり、主人公が波乱を巻き起こしてイケメンを振り回す展開……ルッキズム的な物は終盤の所まではあくまで1エピソードとして扱われるなど)を含んだ作品です。

これを映画に落とし込むのに相当な労力と、若手監督だけに任せない相当なバックアップが必要でした。
そこに労力をつぎ込みすぎて、「映画」という根本に立ち返った視点がお粗末になってたのではないでしょうか?
(かといって原作要素を中途半端に残してるおかげで、改変部分も辻褄が合わなくなってる所もあるし)

最後に、平沼監督。
原作ファンですがあなたに怒る要素はもちろんありません。ですが、「映画ファン」として、もうちょっとサブカル要素の下調べは現地に行く前にやりましょう。
「コミケは二次創作の場」「アニメイトはアニメ作品のグッズショップ」です。
この作り方ならコミケに取材に行く意味は全くと言っていいほど無いでしょう。二次創作なんてひとっっつも出てこないんですから……w

しーぷまん