「いくら働いても豊かになれない構造教えます!!」21世紀の資本 バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)
いくら働いても豊かになれない構造教えます!!
フランスの経済学者トマ・ピケティの分厚く辞書のような「21世紀の資本」は2013年にフランスで出版され、翌年には日本でも翻訳され、世界的にベストセラーとなった経済本ではあるが、名前は知っていても読み切ったという人は少ないのではないだろうか。「21世紀の資本」の解説本のようなものが何冊か出版されたりしていたため、元の本よりガイド本だけ読んで終わってしまったという人も多いと思う。私もテレビの特集などで少し観たりした程度だった。
内容に触れる前に、トマ・ピケティの経済論ではなく、あくまでドキュメンタリー映画としてパッケージングのされ方について言うと、非常に解りやすい構造の映画となっている。
難しい経済用語をただ並べるだけではなく、音楽や皮肉的なグラフィックや映像を使用することで、どことなくポップに感じられる部分もあったりと、他の経済ドキュメンタリーとは一線を引いている作品だ。
特に『プライドと偏見』『怒りの葡萄』『ウォール街』『ザ・シンプソンズ』といった幅広いジャンルの作品でありながら、その時代、時代の世相を反映させているものを部分的に挿入することで非常にカラフルな作品にも仕上がっている。
アニメや音楽を挿入する編集方法としては、マイケル・ムーアにも少しだけ似ている部分もあるが、彼のように過剰なパフォーマンスで描くべき論点をブレさせるものではない。
いきなり「21世紀の資本」を読みなさいと言われても、ハードルが高いかもしれないが、この映画は「21世紀の資本」を入り口として、子供にも観やすい作品だと感じた。
逆に言えば全体的なディティールや論じたいことは映画だけでも理解できるが、格差社会がここまで広がってしまった構造を丁寧に読み解くという部分では、本を読んだ方がより理解できるのだろう。
本の方も読んでみよう、別の角度からも調べてみたい、と観ている側に題材に対しての興味を持たせるというドキュメンタリー映画の本質の部分では、上手く機能しているのではないだろうか。
何故、ここまで堅苦しなく、好奇心を掴むのが上手い構造となっているかというと、監督のジャスティン・ペンバートンと製作のマシュー・メトカルフは、ドキュメンタリー作家でありながら、ミュージックビデオも製作した経験があることから、表現の幅が広いのだ。
監修として著者であるトマ・ピケティも参加しており、本人も出演している。本の内容は出版された2013年頃までのものが多いが、映画が製作された2019年までの間のことも含まれているため、後半は本の続編的な部分もあるのだ。
戦争や革命など歴史に残るような事件がなければ、貧富の差が埋まらないという歴史と統計からはじき出した事実が本と映画の中でも提示されるが、新型コロナウイルスは、正にピケティが言う変革が起こりうる事態である。
「21世紀の資本」の続編は、現代を生きる私たちが作っていかなければならない。それがハッピーエンドになるか、バッドエンドになるかは、人間そのものの古臭い考え方や概念を今こそ崩さなければならないという点でも強烈な余韻を残すし、 新型コロナウイルスがもたらす、大量の失業者や企業倒産が目の前に立ちふさがる、このタイミングでの公開というのが恐ろしい。
勘違いをしてはいけないのは、問題定義はするものの、そこに進み解決を促す映画ではない。あくまで世界の経済の仕組みを知ってください、という教科書的なものだ。
10年以内に運転産業がAIによる自動運転などによって、奪われるとも提示していて、他の産業でも同様に危機に直面している。新たな産業革命はコロナウイルス騒動で早まることは間違いない。
このまま行けば、貧富の差は更に広がっていくだろう…がんばって働けば豊になれるというのは、幻想のように聞こえる人もいるかもしれないが、世界経済の現状を知ったうえで生きていくことで、今までの常識や概念を捨てて、柔軟な考えでいれば、明るい世界の未来を見つけていけるのかもしれないが、現状では難しいだろう