「右と左の二元論で語れるほどに、人の思想は単純なものではないのだ」三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実 といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
右と左の二元論で語れるほどに、人の思想は単純なものではないのだ
私は、本作に描かれているような学生運動については聞きかじった程度の知識しかない平成生まれの若造であり、三島由紀夫という男については自衛隊施設を占拠したのちに切腹してこの世を去った文豪であるという程度の知識しかない人間であります。
そんなほとんど無知な私が本作を観た感想としては、「興味深かった」です。
内容が内容だけに「面白かったか?」と問われれば微妙なところですが、少なくとも「興味深く」最後まで飽きずに観ることができました。
冒頭の過激な左派学生運動の描写の後に、右派の三島由紀夫が東京大学にて討論を行う流れになったことで「大丈夫か?殺されるんじゃないか?」と心配になります。しかしながら実際に討論が開始されてみれば意外や意外、三島の発言に会場から笑いが起こったり学生の発言で三島が笑ったり、三島のタバコに学生が火をつけてあげるようなシーンもあって、当初感じていた危機感は次第に薄れていきました。
難しい単語は字幕で注釈が入ったり、当時実際に現場に居合わせた人たちへのインタビュー映像を途中で挟み込むことで、当時の学生運動について知識が乏しい私のような人間にもある程度は理解できる構成にしてくれたのも、本当にありがたかったですね。
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1969年5月に東京大学駒場キャンパス900番教室で行われた作家三島由紀夫と東大全共闘との討論会を当時の実際の映像や参加者へのインタビューを通じて映し出し、三島由紀夫という男の生きざまを描いたドキュメンタリー。「伝説の討論会」とも呼ばれる討論を現在に蘇らせる。
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個人的に本作で感動したのは「学生運動に参加した学生のその後」を描いているところですね。
当時の学生運動について色々調べたことはありますが、例えば連合赤軍のあさま山荘事件とか2002年に逮捕された重信房子みたいな「一線を越えてしまった過激派のその後」みたいなのは結構見掛けるんですけど「学生運動の一般参加者」に関してはその後の情報があまり見掛けない気がします。もちろんしっかり探せばあるんでしょうけど、センセーショナルに描かれるような話題ではない印象です。しかし本作では三島由紀夫との討論を主催した東大全共闘のメンバーがインタビューに参加しています。全共闘が「敗北」した後にどう考え、どう生きたかをしっかり描いているんですよね。三島由紀夫が主役として扱われている映画でこう言うのも変ですけど、全共闘のメンバーたちも、本作においては紛れもなく主役であったように感じます。
また、本編で描かれている討論の様子にも感動しました。
「右と左」というと対極的な存在で対立していると思われがちですが、冒頭の三島由紀夫の「諸君の熱情は信じます」という言葉で、お互いに認めるところは認めているのだと感じられますし、討論しているうちにお互いに共通認識があることもわかってきたりして、ただただ「論破してやろう」「打ち負かしてやろう」という攻撃的な討論ではなく、実に建設的で愛に溢れた討論であったと感じます。
また、三島の発言の端々から「文学の人間」って感じの美しい表現が飛び出してくるのも感動しました。相手の言葉を受けて意見を返すのが討論ですので、あの場の発言はほとんどが即興で出てきた言葉だと思うんですけど、まるで小説を読んでいるかのような詩的な表現が三島の口から出てくるんですよ。思わず「うわぁすげぇ」と声を出すほどに感心させられました。言葉を使って人の心を動かし続けてきた三島由紀夫という人物の凄さを見せつけられるような場面でした。
平成生まれの自分から見るとまるで異世界のようですが、これが日本に実際に起こった出来事であり、当時の若者たちが自らの青春を投げうって行った「革命」なんですよね。本当に興味深い映画でした。オススメです!!