「ジヨンのお母さん」82年生まれ、キム・ジヨン shoheiさんの映画レビュー(感想・評価)
ジヨンのお母さん
原作を読んだ時も思ったのだけれど、ジヨンのお母さんが偉いなあと思う。学生時代には兄の進学のためにアルバイトで稼ぎ、教師になりたかった夢を諦める。子どもが産まれたら男子を有無ことが期待される。映画では詳しく描かれていなかったけれど、ジヨンには姉がいて弟がいる。つまり、男の子を産まなければという、嫁ぎ先の家族の強いプレッシャーの下で、三人目にしてやっと男の子を生んだわけだ。そして子どもたちに深い愛情を注いで家計を助ける。映画では少し設定が変えられていたけれど、夫が通貨危機(1998年)で公務員を早期退職すると、如才なく不動産投資で家計を救う。映画では孫が産まれてからも食堂を切り盛りしている。ジヨンが就活で苦労して、夫が「就職なんかしなくていい」と言うと、猛烈な剣幕で夫に反論する。自分が満たせなかった夢をジヨンに叶えてもらいたいからだ。映画はその後の家族でなごんでしまうシークエンスがいいんだよな。本当に素晴らしい家庭を育ててきたことが分かる。無償の愛情と、聡明さを持った女性なんだよね。その彼女が苦しんだ社会のしがらみが宿痾となった社会で、娘のジヨンを静かに苦しめる。母の時代と違って、自由なようでいて自由になれない周りの言葉や目線が彼女の精神を蝕んでいくのだ。韓国社会と日本社会、韓国人と日本人は本当によく似ていると思う。だから、これは我々の社会の物語でもあるのだ。原作はデータを多用して淡々と物語を描く面白い手法だったけれど、映画はやはり物語が必要になる。一つの解決の方向を示した結末になるけれど、この閉塞感を脱するには、ちょっとした変化が大事になってきているということだね。