モルエラニの霧の中のレビュー・感想・評価
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珠玉の連作短編7話、計3時間半の詩情あふれる室蘭発ムービー
室蘭市をはじめとする北海道・西胆振地方のため息が出るほど美しい風景の数々と、土地を愛する人々の記憶を刻んだエピソード。7話構成のオムニバスで計214分と尋常ではない長さだが、大勢の人々の思いが伝わってくる大労作であり、詩情あふれる映像にゆったりと心を委ねる鑑賞体験は格別だ。
室蘭生まれの坪川拓史監督は1990年に上京し、初長編「美式天然」のトリノ国際映画祭グランプリと最優秀観客賞をはじめ内外の映画祭・映画賞で高く評価されてきた。2011年に室蘭へ帰郷し、本作の撮影を2014年に開始して5年越しで完成させたという。在りし日の小松政夫さんと大杉漣さんの味わい豊かな演技が収められた点でも感慨深い。
個人的にも母方の親戚が室蘭にいる関係で何度か訪れたことがあり、イタンキ浜や室蘭港などで撮影されたシーンに懐かしさがこみ上げた。一方で予告編にも登場する「崎守町の一本桜」など知らなかったロケ地も多く、室蘭のさまざまな魅力が詰まった映画を作ってくれたことへの感謝をすべての関係者の方々に申し上げたい。
寂れゆく街が主人公
室蘭在住の友人に勧められて「大杉漣さんがでているんだな~」ぐらいの気持ちで観に行った。
物語が進むにつれ、この映画は「室蘭」が主題で、「室蘭で撮ったらこうなりました」的な映画なのだと気が付いた。
幻想的な映像が素敵だったし、センチメンタルな音楽も映像にあっていて抒情的が倍増!?
北海道出身の私の知らない室蘭がいっぱい。
一つ一つのエピソードが心に染みる映画だ思う、けど長い!
ここまで長くする意味は?
と、映画好きの娘に話したら
「まるでニューシネマパラダイスみたいだね。」だって。
「スピード感のある映画ばかり観ているからそんな風に感じるんじゃないの。」とも。
それはあながち間違いではないが。
途中休憩が入ると気持ちが切れてしまったので-0.5ポイント。
R-60映画
「後味悪いまま逝く」
死に向かっていく老人の映画です。R-60指定が適切でしょう。映倫さん、いかがでしょうか。
7つの話がそれぞれに絡み合って、時間を越えてつながっています。ちょっと目を離すと分からなくなります。その間に意味不明のカットが挿入されていて、余計に時間が長く悠長に感じます。もう少し短く編集できなかったのでしょうか。
モノクロとカラーの部分が交互に現れて、最初はその意味が分かりませんでしたが、だんだんと意図が読めるようになりました。
「室蘭はカラーで撮影すると、あんなに綺麗に映らないからモノクロにした」と解釈しました。
室蘭が「老いて徐々に死にゆく街」として描かれていると受け取りました。
映画制作の可能性を広げた作品
室蘭在住の坪川拓史監督が、5年もの歳月をかけて作り上げた、インターミッション付き3時間半を超える映像作品。よくぞこれだけのものを、地元の資金とボランティアの力を得て完成させ、公開に至らせたものと感嘆する。
エピソードと登場人物が重なりながら、バトンを渡すように7つの物語が繋がっていく構成。ストーリーを追っていっても、人間関係はよくわからないし、意味不明なシーンも結構ある。しかし、作品全体としては、室蘭という土地にこだわり、その土地で忘れられかけている人や風景(いわば、土地の記憶)を映像作品として留めようとしていることはよく理解できる。
室蘭は、クルーズ船が入る港や工場群と、イタンキ浜や屏風岩など絶景ポイントが身近に共存している不思議な街。水族館や青少年科学館(今年3月で閉館!)を含め、室蘭の現在と過去を、劇映画として作品化した監督の執念と地元の人々の熱意に、室蘭に縁がある者として、心から感謝する。
役者陣も、有名どころからエキストラまで、みんないい味を出している。特に、第3話の小松政夫。これが遺作となったことは、この作品のテーマと相まって、感慨深い。ラストの第7話の母と娘は、汽車で向かい合って座っている横顔を見ると、本物の親子みたい。
見終わってみると、第1話の宮沢賢治風の物語が、ちょっと異質。自分としては、第6話の表現主義のような演出(最後の人を想起)が特に面白かった。
映画制作の可能性を広げるエポックメイキングな作品であり、この作品から勇気を得て、地方に根ざした作品がさらに生み出されてくれることを、大いに期待したい。
いろんな人が、いろんなことを言ってますが
僕は、この映画が、心から愛おしいと思いました。
同じ時代に、こうした想いを持たれている方と
生きていることに感謝をいたします。
ただその上で、
映画は映像芸術として、
時代を超えて、思想を超えて評価されるべきと
思いますが、
そこも、本作は、楽々クリアですね。
結論。
つべこべ言う時間があるなら、
この映画を観ることに、その時間を使った方が良いと
心から思います。
この監督の想いに共鳴し、
過去の作品も拝見させていただきます。
樹齢100年エゾヤマザクラ
室蘭で暮らす人々の営みと、記憶のお話。
季節毎に描かれた短編7作だけど、後半4話はそこそこの繋がりがある感じ。
特に4話目は5話目へのプロローグ的な感じも。
1話目は少年の夢か妄想な様にも感じる話だったけれど、他は約束を果たしたり、昔を懐かしんだり、歩き始めたりという物語を淡々とみせていく話の数々。
個人的にはサクランボと機関車のエピソードは、中でもまあ好みだったかな。
つまらなくはないけれど、揺さぶられものはなく、この長い作品に意気込んで観賞すると期待外れかも。
余談ですが、観賞していて桃子役の子どこかでみた気が…暫くして先週観たホリミヤの堀さんだね!!
と1週間前に観たばかりの作品の主演なのになかなか気付かない、相変わらず顔や名前を覚えられないポンコツぶりを発揮したのでした。
らせん構造
7話のうち、強い起承転結をもつエピソードはなかった。
第3話「夏」、第5話「秋」、第6話「晩秋」は、一話で閉じていると言えるが、それでもストーリーは弱い。
そのため、どのエピソードを観ても、他のエピソードへの“伏線”のようにしか見えず、もどかしさがつのる。
例えば、第1話「冬」で、大塚寧々が海に投げる「手紙入りの瓶」は一体何だったのか?
第2話と第7話で登場する「蕗子さん」は、結局、どういう存在だったのか?
よく分からない。
何人かの登場人物は、エピソード間でオーバーラップしており、「きっと最後には、一つにまとまるのだろう」と期待した。
しかし、未完の名残を残したまま、どんどん進んでいって、そのままエンドロールを迎える。
結局、関連性に乏しい、7つの断片の集積に見える。あるいは、始まりも終わりもなく永久に閉じない、“らせん構造”のような作品という印象だ。
それでも、複数の監督によるオムニバス作品であれば、“ご当地もの”として良いだろう。
しかし、同じ監督・脚本となれば、困惑せざるを得ない。
室蘭の人なら、よく知った場所や地元の空気感が、ストーリーの弱さを補完して、“腑に落ちる”ところがあるのかもしれない。
自分にとしては、消化不良なまま、214分が過ぎ去った。
長い……が観てよかった
なんと3時間半! 「ロードオブザリング」並み。
エンタメじゃないのに、いくらなんでも長すぎるだろう……と思い、
修行のつもりで観始めたのだけれど、次第に引き込まれた。
第3話「夏の章」のエンディングで流れた「しずかな空」のメロディと歌詞が
今も耳に残っている。目を閉じると、室蘭の美しい風景が浮かぶ。
急逝した大杉漣さんの最後の時が、映画のシーンに重なる。
人生の秋に入ったという自覚のある人が観れば、きっと胸を突かれるはず。
若くても、大切な人やものを失ったことがあるなら。
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