「絶望の中に希望(=子供たち)は立ち上がる」クワイエット・プレイス 破られた沈黙 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
絶望の中に希望(=子供たち)は立ち上がる
絶対に笑ってはいけない! 笑ったら、即尻バット!…は毎年大晦日の恒例だけど(今年はやらないみたいだけど)、
絶対に音を立ててはいけない! 音を立てたら、即死…。
斬新で緊迫感ある設定が話題を呼び、大ヒットしたSFサバイバル・スリラーの続編。
コロナで1年公開が延期になったが、コロナ禍の全米で初の1億ドル突破となり、意義ある大ヒットとなった。
今回まず見せ場は、OP。
のどかな田舎町。子供たちが草野球に興じ、それを応援する親たち。
まだ平和だった頃…。
前作は“何か”に支配され荒廃した世界のみで話が展開していったが(それはそれで引き込まれた)、今回は事の始まり=“DAY1”も描かれる。
突然の隕石飛来。その直後、音や音を立てた人々を“何か”が次々に襲撃…。
息つく暇も無いあっという間の衝撃の出来事に、ただ恐怖し、逃げ惑うしかない人々…。
その中で、徐々に気付く。“音”を立ててはいけない、と…。
それでも一人、また一人と犠牲になっていく…。
アボット一家は辛うじて危機を脱していく。
このOPシーンで秀逸なのは、長回しを多用。臨場感や緊迫感を高めている。
そして、“DAY474”。いよいよ前作の続き…。
家族を救う為犠牲となり、大黒柱のリーを失ったアボット一家。
家を出、安住の地を求めて危険ながらも旅に出た母エヴリン、長女リーガン、長男マーカス、産まれたばかりの赤ん坊。
道中、マーカスが怪我をする。前作のエヴリンが釘を踏む描写も痛々しかったが、今回もOUCH! 声を上げずにはいられない。
“何か”襲撃。廃工場へ逃げ込む。そこで一家を助けたのは、エメット。死んだリーの友人。
助けたのは助けたが、旅をする一家の手助けはせず、廃工場から出ようとはしない。
廃工場には密閉すれば音が外に漏れない焼却炉がある。万一の時はここに逃げ込めば“何か”に襲われる事はないが、密閉空間になる為酸欠状態に…。(←勿論後々そういう危機になるという事)
前作ではほぼ一家のみだった登場人物。
今回は謎の人物エメットの他にも、生存者が居そうな…?
と言うのも、リーが遺したラジオ。それから流れる音楽『ビヨンド・ザ・シー』。
一家は知らなかったが、4ヶ月ずっと同じ音楽が流れている。
ラジオの故障ならまだしも、ひょっとしたらこれは合図…? 誰かが意図的に…?
流れている場所は廃工場から一日もかからない距離にある島。
曲の意味は、“海の彼方へ”。
リーガンは家族の制止を振り切り、行動に出る。発信源の島目指して旅へ…。
家に立て籠るだけのシチュエーション的だった前作と違い、いつ襲われるか分からない外の世界でさらにサバイバルのスリルは増し、目的の場所を目指すロードムービー要素もプラス。
やはり今回も“音”の演出が素晴らしい。
森の中、落ち葉を踏む音でさえドキドキ…。
ある罠や鳥の羽音/鳴き声にビクッ!
音の演出で見事だったのは、リーガン。ご存知のようにリーガンは、難聴。時折無音になる。
道中、必要なものを調達しようとする。が、耳が聞こえない故、どれくらいの音を立てているか本人は全く知らない。
本人は音を立ててないつもりが、気付いた時、“何か”がもうすぐそこに…!
天晴れな恐怖演出!
そこを救ったのは、エメット。
2人で発信源の島目指して旅を続ける事になるのだが…。
ある朝起きると、エメットの姿は無く、補聴器も無い。騙されていたのか…? 疑心暗鬼。
ある港。ここで彼らを待ち受けていたのは、言うまでもない。滅びた世界、得体の知れないものと同等に恐ろしいのはモラルが崩壊した人そのもの…。
一方のエヴリン、マーカス、赤ん坊は廃工場に留まる。
エヴリンが必要品を調達に行っている時、ついついマーカスが音を立ててしまい…!
襲撃する“何か”。エヴリンは子供たちを救う為、機転を利かせて対決する。
この2つのエピソードが交錯して展開。
一緒に居た家族が途中から別れ、下手すりゃスリルが分散してしまいがちだが、これが呼応するくらい相乗し合っている。
例えば…
港でのリーガンとエメットの危機と、廃工場でのエヴリンとマーカスの危機。
島に辿り着いたリーガンとエメット。“何か”は水が苦手で海を渡る事が出来ず、生き残った人々は島で平和に暮らしていたが、渡ってきた船に“何か”が…。
“何か”による島襲撃とリーガンらの決死の闘いと、同じくエヴリンらの決死の闘い。
これら全くの別場所で繰り広げられるのに、そのあたかも繋がっているような巧みな編集の妙!
OPの見せ方も巧いし、“DAY1”から“DAY474”への繋ぎ方も絶妙。
今回も相変わらずツッコミ所はあり。
音立てるなよ!音立てるなよ!絶対に音立てるなよ!…と言ってる割りに、ちょいちょい音を立ててる皆さん…。ダチョウ倶楽部か!
あっという間に世界や人類を滅亡させたのにも関わらず、鉄砲であっさり退治も出来る。脅威なんだか弱いんだか分からない“何か”。
廃工場や島の暮らしを脅かした張本人は…、まあこの辺で。
しかし、この斬新な設定やスリルはますます冴え渡り、OPやクライマックスのパニック演出や“何か”とのバトルなどスケール面もアップ。
上々の続編。ジョン・クラシンスキーのチャレンジ精神は止まらない。
続投のエミリー・ブラント、初参加のキリアン・マーフィ、ジャイモン・フンスーはさすがの熱演だが、今回はあくまでサポート側。今回の実質主役は、子供たち。
リーガン=ミリセント・シモンズ、マーカス=ノア・ジュブ。
シモンズの熱演、ジュブの成長。
彼らの逞しさを見よ!
絶望的な世界のサバイバルSFスリラーだが、僅かな希望を失わない、一種のジュブナイル映画にも最後は感じた。