「大きな噓を成立させる細部のリアルさ」クワイエット・プレイス 破られた沈黙 うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
大きな噓を成立させる細部のリアルさ
基本的には満足の出来なのだけれども、やはり前作ほどの驚きや緊張はない。前作では、音を立てれば容赦なく襲ってくる謎のクリチャーに追い詰められていく若いファミリーに、目が釘付けになったが、今回は、少々構成が違う。
何気ない日常が突如怪物によって蹂躙され、人間社会が壊滅的に滅んでいくさまが描かれ、どうしてこんなひどいことになったのかが初めて語られる。
そこには、意図的に行政のサービスや社会的な情報の存在が省略されている。
例えば、コロナウィルスにこれだけ苦しんでいる日常は、行政とマスコミが作り出したものと言えなくもないのかもしれない。
そこまで露骨じゃなくとも、怪物と闘う州軍の兵士や、避難所を運営する行政の人々、被害の状況をレポートするマスコミなど、一切出てこない。もうそれどころじゃない段階まで文明が滅んでしまっている。
そのきっかけになった一日目が、象徴的に描かれているのだ。
そして、もうひとつ変えてきたのが、同時進行で別行動をする家族を追ったストーリーだ。というより、勝手に放送局を探しに行った娘と、それを心配して探しに行く男。そして、必要な物資を調達に出かける母親と、比較的安全なシェルターで待つ赤ん坊とけがをした少年。これを同時進行で描き、「あるタイミング」でそれがつながって危機を脱出する。
そんな構成になっている。
簡単に言うとこの映画はお金のかからないゾンビ映画だ。ゾンビを登場させなくていいので低予算で製作できる。あまり書くとネタバレになるので必要最小限にしておくが、謎のクリチャーにも思わぬ弱点が見つかる。これは、ストーリーを進行するにつれ必ずつきまとう問題だろう。どこかに矛盾が生まれて、それをつぶすために都合のいい説明を上書きして、余計にウソくさくなっていく。
たぶん、その辺の矛盾点をつついたレビューを載せている人がたくさんいると思うが、本来この映画の魅力は「かくれんぼ」で体験した緊張感や恐怖を、巧みに再現した状況設定と、家族の結束や母親の強さ、自己犠牲の尊さなどの人間ドラマを見せてくれたことにある。その主題から外れることは、いくら指摘されようと、些末なことに過ぎない。
とは言え、大きな嘘を成立させるには、やはり細部のリアルさは絶対的に必要で、そこがないがしろになると、どうしても興ざめしてしまう。
ひとつだけ、どうしても納得できない基本設定がある。
音を立てると、クリチャーが襲ってきて、ほぼ即死する。というシンプルな設定のスリラー映画に、ろうあの少女が優位に振る舞う。つまり、手話を使ってコミュニケーションが出来るので、音を出さずに意思の疎通が可能だという優位性だ。
しかし、耳が不自由な彼女はいったいどうやって、自分が音を出していないことを自覚できるのか。たとえば、枯れ葉ひとつ踏んづけても、怪物に気付かれてしまうというのに、立ったり座ったりするだけで、自分が音を立てていることが自覚できるとでもいうのか。そこらへん、もう少し詰めてほしかった。
そして、クリチャーのデザインや動きが、思ったよりちゃちだったこと。いっそのこと徹底して見せないようにしたほうがよかったかもしれない。
そういう意味で、物語の続きとしては満足なのだけれど、何か新機軸になるような展開を生み出せていなかった。そこが残念だった。
2021.6.19