「ネタバレ覚悟で予習する人以外にはおすすめしない」TENET テネット acayou subaさんの映画レビュー(感想・評価)
ネタバレ覚悟で予習する人以外にはおすすめしない
独創的で面白い設定ですが、基本的にほとんど説明がないままストーリーが進行するという、不親切な設計なので、初見ではまず理解できません。だからといって複数回視聴することも後述する理由からおすすめできません。
なのでネタバレ覚悟で予習する人以外にはおすすめしません。あるいは観終わってからまとめサイトなどで調べてもいいかもしれません。(自分はそうしました。)
何回も同じ作品を観て楽しめる人にとっては傑作なのかもしれませんが、一回観て満足したい人にとってはただの駄作です。
そもそも観れば観るほど発見があって興味深いならまだしも、初回でほとんど理解すらできない作品に価値は無いと、個人的には思います。
・複数回視聴をお勧めしない理由
私は一度最後まで観た後に、まとめサイトなどを調べて情報を補完して理解しました。
しかし調べれば調べるほど矛盾点が多いことが分かります。別に科学的に絶対正しくなければならないなんて言うつもりはありませんが、奥の深い作品を作るならばせめて生じる現象くらいは一貫性を持たせて欲しいです。
本作ではその時々によって同じことをしても全く別の現象が生じるという矛盾が散見されます。この矛盾はストーリーの流れや、行動の合理性すら怪しくなるレベルのものも含まれます。そのため興味深い部分を考えれば考えるほど、矛盾が出てきて、主人公の行動原理、必然性に疑問が生じてきます。そんな大きな欠陥を持つストーリーを何度も観る気にはなれません。この作品のコンセプトからしても致命的です。
クリストファー・ノーラン監督は一回観てちょっと調べた程度の自分よりも、ずっと多くのことを考え、多くのメッセージやこだわりが詰まっているのだとは思います(実際に監督は上記の矛盾にも気づいていながら、映像作品として面白くなるようにしたようです。)。
しかし自分にはどうにもそれが自己満足に思えて仕方がない出来だったので、星2にしました。
心底同感です。時間遡行で順行世界と干渉し合うという設定はユニークです。しかし、それが映像上の「アクション、モーションの新鮮さ」としてしか機能していません。その面白さも爆発/破壊や銃発射/傷害など、時間軸上順行側で「その建物は、いつから破壊されていたの?」といった説明しにくい現象で気にかかります。
(ネタバレ)
これらに目をつぶるとしても、登場人物たちの行動・動機・存在に時間軸上矛盾が多々見られます。例えば、セイターがアルゴリズム奪還のために逆行カーチェイスに出かけるところです。結果、セイターは奪還に成功しますが、その同時刻に回転ドアの傍のセイターは奪還成功の知らせを仲間から受けるので「そもそも命を懸けて奪還に出かける必要はない」ということになります。しかし出かけなければ奪還できない・・・??? シュタゲのように世界線がどこかで分かれている?それならもう少し連続と分岐の説明が必要になりますし、そのとき順行側はどこで世界線が分岐する?
世界線分岐点の疑問に加えて同一人物の同時存在についても疑問が生じます。回転ドアは、作品における世界構造の鍵になる重要なシステムです。回転ドアを使用する時に順行方向でも逆行方向でも使用と同時に同一人物が複数同時存在することになります。場合によっては3人以上が同時存在しています。すると、クルーザーでセイターが射殺されても後に生きているといったように、常にその可能性を考慮したように皆が行動していなくてはならない。
そもそも主人公らの大きな目的が「先回りしてアルゴを奪還する」「セイターを過去で抹殺する」という話なら、これまでのSFのように、定時にタイムトラベルして順行で別の世界線が形成されるだけで良いです。キャットはわざわざ逆行から順行へ移動してセイターを殺しに行っています。
制作という点から生産的な話をしましょう。「記憶保持しながら順行世界を自由意思で遡行(逆行)」というプロット上の設定なら、「その設定でしか出来ないシナリオ」が欲しいのです。例えば劇場は最大の見せ場です。演劇(オペラ・演劇など)が上演され、その演目の逆鑑賞に国家転覆同時テロの暗号メッセージが入っていた、といったシナリオです。
金をかけた派手なアクション映像と複雑な編集トリックだけで煙に巻こうとしている感じで、SFなのに各設定と全体のシナリオが雑すぎであると感じました。