劇場公開日 2020年9月18日

  • 予告編を見る

「ノーランと観客との集中力持久戦」TENET テネット ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5ノーランと観客との集中力持久戦

2020年11月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ノーランはマジシャンだ。時間軸の変化、正義の歪曲、イマジネーションのビジュアル化など、様々なトリックを使い、観客を楽しませてくれる。今作で使うトリックは時間の逆行だ。現実世界において、一方的に進むだけの時間を逆行させ、時に進行させ、果てには進行と逆行の両方をやってのける。中盤の前進する車と逆走する車によるカーチェイスは驚きと興奮を詰め込み、なかなかどうしてのイリュージョンを楽しませてくれる。

しかし、この時間の逆行こそが本作の肝であるが故に、それ以上のトリックがないのが玉に瑕。物語を複雑にして魅せてはいるが、このアイデアひとつで150分駆け抜けようとするので、正直、ノーランと観客との集中力持久戦に持ち込まれてしまう。もっとも、この時間逆行イリュージョンは割と序盤から使われてしまうおかげで、この作品全体のルールがうまく理解できないまま、コトが進んでいく印象が否めない。時間の常識が分かるから、時間の非常識に驚くことができる。ストレートを見せ続けた後だからこそ、変化球で三振を取れるのだが、ノーランは最初から変化球だけで勝負をしてくるので、そもそものストライクゾーンが分からないのだ。

とはいえ、ノーランは映画館至上主義者だ。動画配信が台頭し、映画館離れが叫ばれる今だからこそ、未体験の映像と繰り返し見ないと分からない大作を作ることで、映画館で映画を観る楽しさを伝えたかったのかもしれない。ならば、物語が難解な分、登場人物たちの見せ方がもっと整理されている必要があって然るべきであろう。友情、ロマンス、悪漢への憎悪が取って付けたような薄っぺらいものに思えてしまう上に、ラストの大掛かりなアクションもヘルメット&マスク装着によって誰がどこにいるのか分かりづらさが倍増してしまった点は苦言を呈さざるを得ない。

無論、好みはあるだろうし、この作品を何度も観て解釈の答え合わせをしていくのも、映画の醍醐味ではあるが、正直、私はこの作品をもう一度観たいという衝動には駆られなかった。ノーランは毎回魅力的なアイデアで観客を翻弄するが、もう少し登場人物たちの気持ちに寄り添う優しさを持って欲しいと思ってしまう。

Ao-aO