「逆さまなものほどお互いに補い合い、魅力ある現在を生む」TENET テネット ありきたりな女さんの映画レビュー(感想・評価)
逆さまなものほどお互いに補い合い、魅力ある現在を生む
お恥ずかしながら、ノーラン監督作品を初めて拝見。
SNSで『MIU404』の最終回に似ていると聞いて気になったので。
難解という噂がすごく先行していて、確かにそれなりに頭をフル回転してもパーフェクトには理解できてないと思うけれど、粗方の筋は普通に観ていれば追える。そんなに煽るほどでは無いと思う。
どちらかというと、何が起きているか理論的に理解することよりも、順行と逆行がせめぎ合い、最終的に同じ画面に収まってるその画を矛盾の無いように作っていることの方が凄まじくてクラクラした。どうやって撮ってるのかもうわからないシーンばっかり。
あとMIUの方は「2人が見た悪夢」という体からの2019年→在り得たかもしれない=コロナがなくオリパラのある2020年→時間が戻り分岐点で分かれた2019年→コロナ禍の2020年と辿って行き、結果として悪夢ではなく全員が生還し、尚且つ404が2020年のこの夏にも東京を生きて密行しているという着地だったのに対して、
TENETは元々順行している自分と逆行後の自分がパラレルワールドとして存在するので、全く同じでは無いかと。しかも逆行ってただ時間がパッと戻るんじゃなくて時間は同じ分かけないと戻れないんですね。より複雑な感じ。
個人的には男バディものとして最後の2人のやりとりが胸熱。
順行組と逆行組で配置が分かれた時点でなんとなく予感がしたけれど、逆行している者は未来を、全てを知っているわけです。それでも逆行から順行へと転じたニール。
自分の役目を痛いくらいに知っているからこそ、その先の自分の役目の終わりの結末まで解った上で、在るべき自らの終焉に向かう。
そしてその先も順行していく主人公は、あの小銭のような形のアレを見遣った瞬間に、やっと真に自分の役目を理解し、為すべき"後処理"までこなしてラストではじめて本物の主人公となる。
だからこそ初めて2人が出会ったボンベイの炭酸の邂逅が美しい。知らないはずの貴方が私を知っている理由。片方は待っていて、片方は全く知らない。知っている者は最期まで秘密を守り、知らぬ者はそれ故にその強さで人類まで救う。「無知こそ武器」がここで活きる。
しかも、私はここまでは気付けなかったけれど、あの息子ってニールなんですね?どこで言ってた?
まあ知らんけど、それなら期せずしてニールの未来を守ろうとする主人公と、成長したニールは何度も過去で主人公の危機を救うんですよ…互いが互いを助けて生かしあって。もう人類の滅亡とかどうでもいい、ってくらいこっちの方が尊すぎる…クソエモドラマじゃねえかよオイ。
赤と青、火と氷、過去と未来。逆さまなものほどお互いに補い合い、魅力ある現在を生む。