「抜刀斎の涙」るろうに剣心 最終章 The Beginning よっちゃんイカさんの映画レビュー(感想・評価)
抜刀斎の涙
とても素晴らしい映画だった。
見終わってまずこう感じた。
しかし、正直にいうと途中まではそこまで良いと思っていなかった。
順番の入れ替えや細かい書き換えはあるもののほとんど原作通り、いや原作より笑いがない分原作よりも劣化している・・・とまでは言わないが、所詮原作の再現ドラマに過ぎない。
そう思っていた。
ところが、池田屋事件が起こるあたりで急展開を迎える。
池田屋に剣心が助太刀に向かうのだ。
「あーはいはい。原作ではあまり絡めなかった所をあえて絡めてくるんですね。それで喜ぶと思ってるんだ。」
こう思った。
ところがどうだろう。
これがただ単にワクワクするだけではないのだ。
沖田総司との闘い、その戦いの最中総司が吐血する。
この吐血する場面は新撰組が時代劇で描かれる場合に必ず挿入される場面で、いわば「お決まりの展開」というやつである。
このお決まりの展開が剣心に深く関わってくる。
総司が吐血しても剣心は斬りかからない。
これはそれまでの流れを見ないものからすれば「武士の情け」あるいは「正々堂々と闘いたい武士道」そう受け止めるのかもしれない。
しかし、この「斬りかからない」ところに剣心の人を斬ることへの迷いが現れている。
そして、そのあと駆けつけた斎藤一と顔を合わせた時に一筋涙を流す。
僕はこの涙が「人を斬りたくない」という剣心の本心のような気がした。
結果、原作には無い池田屋事件の裏での新撰組と抜刀斎の邂逅が僕の心に残る名シーンとなった。
それから後は原作を超える展開が出るは出るは。
次に印象に残ったのは剣心と巴のラブシーンである。
巴は自分の過去を話し剣心によりそう。
そして、剣心の頬の傷をそっと撫でる。
このシーンは原作でもあったような気がした為終映後原作を読み返してみると、そんな描写はなかった。
ただこのシーン最初から席に座って見ていると頬を撫でるというラブシーン以上の想いが見える。
最初の夫が生きようとする意思でつけた傷。
その傷を巴が撫でることで夫を殺した男を愛する矛盾というものが浮かび上がった。
結果そのシーンは剣心、巴、そして清里が絡み合う愛おしくて哀しいそんな複雑なラブシーンになった。
そして、物語のクライマックス。
剣心の頬の十字傷の由来である。
僕はこのシーンを見た後原作を読み返してみると原作の方が物足りなく思えてしまう。(もちろん原作には原作の良さがありますが。)
それくらいに素晴らしい映画史に残る名シーンとなった。
漫画の実写版とはかくあるべきと思った。
具体的に言おう。
原作では、巴が斬られた後巴の持っていた懐剣が剣心の頬に飛んできて傷がつく。
つまり、巴に傷を「つけられる」というよりは傷が「ついてしまった」そんな印象を受ける。
しかし、この映画では巴が自ら傷をつける。
これは原作通りにやるとリアリティが失われてしまうという監督の判断なのだろう。
だが、それが功を奏した。
最初予告で巴が自分で剣心の頬に傷をつけているのを見た時は「巴はそんなことしないだろう。」と思っていた。
浅はかだった。
清里も愛し、清里を殺した剣心をも愛した巴だからこそ剣心の頬に傷をつける。
そこには巴なりのケジメをつけるという決意が見える。
そして、頬に剣を当てる巴の手を握り、巴と共に頬に傷をつける剣心。
ここに、愛する妻が愛していた男を殺した後悔、懺悔の気持ちが強く表れていて後々剣を捨てて旅に出るという展開にさらに説得力が出た。
そして、時は流れて鳥羽伏見の戦い。
この鳥羽伏見の戦いのシーンが時の流れというものを感じさせる。
恐らく第1作の映像を使い回してるのだろうなぁと江口洋介さんの若い顔を見て思うが、それが昔と今、時の流れを感じさせて逆に味になっていた。
そこから最後第1作目に繋がっていくまで流れが完璧である。
個人的には
the beginning→るろうに剣心(第1作目)→the final
この順番で見てみたいと思った。
たしか第一作でも言っていたであろう斎藤一のセリフ
「これで終わりだと思うなよ」
このセリフの重みが、第1作目の時より10年の時を経て、そしてthe beginningを経てより一層増していたように思った。
後一つ触れたい原作からの改変点がある。
それは巴の真実を剣心が知るタイミング。
原作では巴を切った後に真実を知るが、この作品では巴を救いに行く前に知る。
この違いでその後の戦いに違いが出てくる。
原作だと「巴を救いたい」その一心でそれ以外の感情は無いそんな激情的な剣心が見れるのだが、この映画では真実を知った剣心が自分の犯した罪に悩みながら巴を救いに行くという複雑な感情を持つ剣心を見ることができた。
個人的にはいろんな策略を受けても「それがどうした!!」と返して巴の元へと迫る剣心も見てみたかった気がするが、これはこれであり。
というか巴を救いに行く前に真実を知るからこそ十字傷のシーンが生きるのも事実。
後は、辰巳の描き方も北村一輝さんに合わせて少し原作と趣が変わっていた。
原作よりも辰巳がかっこよかった。笑
とにもかくにも鳥羽伏見の戦いに始まり鳥羽伏見の戦いに終わる。
るろうに剣心というシリーズが伝説へと昇華したその瞬間を体験できて本当に良かった。