劇場公開日 2021年5月7日

  • 予告編を見る

「ラファエルが巨根だというシーンがあった」ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ラファエルが巨根だというシーンがあった

2021年5月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 フランソワ・シビルは、ジュリエット・ビノシュ主演の映画「私の知らないわたしの素顔」で相手役として出ていて、そのあと「パリのどこかで、あなたと」では二枚目の主役を演じていた。両作とも映画としてはとてもよかったのだが、フランソワ・シビルのゴリラみたいな顔(失礼!)のどこに人気があるのだろうと、不思議に思っていた(またまた失礼!)。しかし本作品を観て漸く、人気の秘密がわかった気がした。彼は理性的な思考と感情とが揺らぎ合う繊細な演技ができるのだ。哲学的なフランス女性は彼の豊かな表情に惹かれるのだろう。
 どうでもいいことだが、相手役のオリヴィアを演じたジョゼフィーヌ・ジャピが、少し前に日本のグラビアで活躍したスザンヌに似ているなと思いながら鑑賞した。そう思ったのは当方だけだろうか。

 本作品は恋愛喜劇として秀逸だと思う。二つの世界に同じ女性がいるが、ひとりは自分の妻でひとりは赤の他人の有名人という設定である。フランソワ・シビルが演じる主人公ラファエルは、前日とは一変した状況を徐々に理解して受け入れる。起きたことは自分にとって悲劇だが、世界にとっては何でもないことを知っている。騒いでもどうにもならないし、都合のいい奇跡は起こらない。現実的な対処が必要なのだ。
 フランス映画における恋愛は、恋は性欲の現れだからいつかは相手に飽きて冷めてしまうことを前提に、一時的な浮気は互いに認めることが多い印象である。夫婦に必要なのは性の相性と信頼関係、それに相手を大切にして気遣う優しさである。
 性の相性はとても大事で、本作品でも大学で出逢ったラファエルとオリヴィアが性の相性もバッチリという言葉が一瞬だけ出たと思う。そこをもっと深堀りすると、付き合う前に互いに猥談をさんざん交わし、何をしたりされたりするのが好きかどうかを確認したのではないかと思う。日本でも若い人がもっと猥談をすれば、性行為をする前に、性の相性をある程度は確認できると思う。プログラミングが得意な人がいれば、猥談を主体にしたマッチングアプリを立ち上げると大儲けが出来る筈だ。そういえばラファエルが巨根だというシーンもあった。

 性の相性もよくて信頼関係もあり、互いを大切に気遣っていたラファエルとオリヴィアだが、一方だけが忙しすぎると時間の使い方がおかしくなる。フランスは労働時間の短い国だが、自由業には適用されず、周囲のビジネスマンが銭ゲバの金儲け主義だと、コンテンツとなる作家やデザイナーは際限なく働かされる。
 ラファエルがどこまでも売上を伸ばしてリッチな生活をしようとしたのに対して、有名なピアニストの方のオリヴィアは私生活を大事にする。この対比は重要で、ラファエルが、手に入れた以上のものを失った理由にもなっていると思う。そこに、本作品が描こうとした人生の真実がある気がした。

耶馬英彦