「貧相な脚本に不釣り合いの豪華な絵を鑑賞する映画」映画 えんとつ町のプペル サブレさんの映画レビュー(感想・評価)
貧相な脚本に不釣り合いの豪華な絵を鑑賞する映画
「大人も泣ける絵本」を原作として実写化されたCGアニメ映画。煙に覆われた空の下で生きるルビッチが、ごみから生まれたごみ人間のプペルと出会って、父親が煙の向こうに夢見た星を見に行く、みんなに見せるために行く物語。
と、あらすじ自体は悪くなさそうなのだが、はっきり言って映画としての見どころは一切ない。気持ちのいいキャラクターは多く出てくるが、この映画は彼らの行動原理や心情を彼ら自身にしゃべらせるため、彼らが紡ぐ物語として全く魅力が私には感じられなかったからだ。
たとえばルビッチ。彼がこの物語の主人公にして物語の水先案内人なのだが、とにかく考えなしに行動して誰かに助けを求めてばかり。母親に嘘をついてプペルに協力を頼む、働き先にプペルをかくまってほしいと駄々をこねる、やりたいことがあるから手を貸してくれ時間を稼いでくれとお人よしをうまく使う。
この「助けを求める」というのが非常に厄介で、ルビッチが誰かに依頼するときには物語の状況整理とこれからの展開提示が同時になされる。つまり、おしゃべりだけで物語を進めているということになる。絵本ならそれでいいが、映画なら「画」で物語をぐいぐいと先に引っ張ってほしかった。
キャラで言えば、悪役として出てきた異端審問官が「新聞記者」と同程度の悪役ぶりであるばかりか、いなくても物語に全く影響がなかったのも驚きだった。
また、物語や舞台の秘密の明かし方が著しく下手だった。特に「えんとつ町」の成り立ち。終盤でその秘密が明かされるのだが、とりわけ作中で秘密だと強調されてはいなかったので(異端審問官は外に行くなとしか言っていない)、明かされたところで何の感慨も湧かなかった。
母ちゃんのルビッチへの思いやプペルの正体もそうだが、とにかく前振りもなく突然設定が明かされる。「大人も泣ける絵本」と銘打っておいてクライマックスへの前振りを積み重ねないなんてそれはないでしょう、と。SBMドラえもんだってちゃんと積み重ねて白々しいお涙頂戴をやっているのに。
と、以上の理由から脚本のレベルが以上に低いと断言せざるを得ない。魅力を自ら捨てるキャラクター、ぼんやりと進むだけの物語。絵本に求められるのは単純さなので、それも仕方がないか。
記憶に残ったシーンはすべて背景絵の美しさに惹かれたのみ。逆に言えば、背景絵は本当に美麗だったので、「絵本の実写化」あるいは「絵本を動かしただけ」と考えれば良作なのだが。
あと、アントニオのキャラ造形だけはよかった。