劇場公開日 2020年1月31日

「ゾンビ映画の新基軸!がハッタリじゃないことあるんだ…」処刑山 ナチゾンビVSソビエトゾンビ 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ゾンビ映画の新基軸!がハッタリじゃないことあるんだ…

2024年7月5日
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ロメロが『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』にてゾンビ映画というジャンルを打ち出してから既に半世紀以上が経過した。同じくジャンルホラーの代表的フォーマットである「サメ映画」が「クソであればあるほど素晴らしい」というネガティブな美学性のもとで依然興隆を保っている一方、ゾンビ映画はどうにも飽和気味の感がある。

走るゾンビ、泳ぐゾンビ、喋るゾンビ、仲間になるゾンビ、ありとあらゆる修飾を施されたゾンビ像を我々はこの半世紀で腐るほど見せつけられてきた。だが、そういう小手先のマイナーチェンジが機能する時代は今や終わりを迎えつつある。

そんなわけでゾンビ映画の新基軸を自称する本作についても期待というよりはむしろ疑惑の念をもって臨んだ。前作『処刑山 デッドスノウ』もまあまあ面白くはあったのだが、サム・ライミ『死霊のはらわた』にナチス要素をリミックスしただけといえばそれまでの映画だった。

しかし本作は紛うことなくゾンビ映画の新基軸だ。言うなれば岩明均『寄生獣』がゾンビ映画と悪魔的邂逅を果たしたかのような怪作だった。

物語は前作のラストカットから始まる。片腕を失ったもののどうにか雪山から逃げ延びた主人公マーティンに、ゾンビナチス軍のボスであるヘルツォークが襲い掛かる。マーティンは激しいカーアクションの末にヘルツォークを振り落とすが、そこで気絶。気がつくとマーティンは病室にいた。

しかしどうにも違和感がある。失ったはずの右腕がくっついているではないか!

医者は「車の中に落ちてた腕をくっつけた」という。バカ野郎、そりゃお前、ゾンビの腕だよ!!

なんという突飛な展開。さらに悪いことに、ヘルツォーク率いるナチスゾンビ軍が市街地への進軍を開始してしまう。

マーティンははじめこそ右腕に宿るナチスゾンビの悪意に振り回され、周囲の人々を殺しまくるものの、次第にそれをコントロールできるようになる。すると彼は自分の右腕がとんでもない能力を持っていることに気が付く。死者の額に手を触れると、彼らはマーティンの言うことを聞くゾンビとなって蘇るのだ。

マーティンはゾンビ退治屋を自称するナード学生たちと協力し、ゾンビ軍団を作り上げることを決意する。「ナチスゾンビ」に一番恨みがありそうな勢力といえば…ということで彼らが向かった先はソビエト兵たちが眠る墓の前。

かくしてヘルツォーク率いるナチスゾンビ軍と、マーティン率いるソビエトゾンビ軍による独ソ戦が幕を開ける。タイトルが詐欺のゾンビ映画は星の数ほど存在するが、まさか一言一句違わずちゃんとタイトル通りに展開してくれるゾンビ映画が存在するとは…

登場するゾンビにもバリエーションがあっていい。全く知能がなさそうな王道ゾンビから、負傷したゾンビを手当てする軍医ゾンビ、そして高い知能と指揮統率力を誇る親玉のヘルツォーク。ゾンビ側が戦車を運転するパターンは流石に初めて観たかもしれない。

ヘルツォークにトドメを刺す際のマーティンのセリフもいい。「お前らが滅びた理由を教えてやろうか?欲張りすぎたからだ」。

ゾンビのディテールをいじくる方向で自己延命を図るゾンビ映画も好きではあるのだが、本作のようにゾンビの生成消滅の契機というメタ的な領域に踏み込んだゾンビ映画も非常に面白いと思う。

なんか、まだまだいけるっぽいな。ゾンビ映画。

因果