劇場公開日 2021年12月17日

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「アメリカにも自浄作用はあるのだ」ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0アメリカにも自浄作用はあるのだ

2021年12月23日
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鑑賞方法:映画館

 弁護士ロブ・ピロットの怒りは地の底のマグマのようだ。時折は火山として噴火するが、大抵は見えないところで静かに燃え盛っている。

 巨大企業が住民や消費者に健康被害を齎す事例は日本でも事欠かない。一般に公害と呼ばれる事例では、水俣病や四日市喘息、イタイイタイ病などがある。水俣病では現在でも苦しんでいる人がいる。
 現在の日本では公害は話題に上らないが、静かに進行している可能性がある。例えば食品添加物だ。コンビニやスーパーの米に使われているグリシン、パンの製造に使われる臭素酸カリウム、人工甘味料のアスパルテームやスクラロースなどが発がん性を疑われている。臭素酸カリウムはEUや中国では食品への使用を禁止されているが、日本では禁止されていない。
 また、揚げ物に使われているショートニングはトランス脂肪酸であり、不飽和脂肪酸のDHAやEPAと間違われて脳内に蓄積する可能性がある。EUやアメリカのいくつかの州では食品への使用が制限されているが、日本では制限されていない。
 農薬では除草剤に使われているグリホサートが発がん性を疑われている。フランスやドイツなどのヨーロッパ各国や中南米諸国などが禁止しているが、日本は逆に緩和している。アメリカが買わせるからだ。

 アメリカン・ドリームという言葉がいい意味なのは米国においてだけだ。アメリカ人の成功というのは有名になること、金持ちになることである。つまり成功者とは名性欲と金銭欲の塊だということである。日本には仏教的な恥のパラダイムがあるから欲をあからさまにするのは憚られるが、アメリカ人は堂々と欲を主張する。トランプが支持される理由がそこにある。
 本作品の登場人物も欲を主張する人ばかりで、デュポン社の顧問弁護士は、デュポン社の企業責任を追及して自分の立場を損なおうとするピロット弁護士に対して「Fuck you!」と、高給取りの企業弁護士にあるまじき言葉を浴びせる。言われたロブは呆れ返ってしまう。当方も呆れ返った。アメリカという国には欲しかないのか。
 大抵の政治家も欲の塊だから、企業からの巨額の賄賂で右にも左にも簡単にブレる。企業はもちろん自社の利益を守ることしか興味がない。そこで働く人々は自分たちの収入を守ることが第一だ。被害者の代表であるロブ・ピロット弁護士は、権力者の敵なのだ。

 流石にプロデュースにも参加しているだけあって、マーク・ラファロの演技は圧倒的だ。真摯に粘り強く努力するロブ・ピロットには誰もが感情移入するだろう。最初は夫が理解できなかったが、夫への愛情には変わりがなく、夫の仕事を理解することで少しずつ視野を広げていく妻サラ・ピロット。アン・ハサウェイの演技も最高だった。
 本作品によってアメリカン・ドリームの信奉者が減ることはないかもしれないが、アメリカン・ドリームを果たした人々によって何が行なわれているのかは理解できると思う。何より、本作品がアメリカ映画であるという点が大きい。アメリカにも自浄作用はあるのだ。

耶馬英彦