劇場公開日 2020年3月14日

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「優しさって何?」ひとくず はなもさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5優しさって何?

2021年2月19日
iPhoneアプリから投稿

虐待を受けた人間のその後の有り様を描いた映画である。

クソ女と罵倒される母親役リンの演技、体当たりで光る。罵倒されながらも、少しずつ、ドギツイ化粧から、少しナチュラルになり、鞠に対する言動が変わっていく。
 その情夫役ヒロ君、すぐ死んでしまうのだが、アブナイ目付きと、なんだかラリっている様な喋りがインパクトがあった。

 カメラは、いつもローアングル。社会をいつも下からしか見てない様にも思えた。狂犬の様なマサオの目線⁈

 実話の児童虐待を元に描かれているので、画面がとてもリアルで、見ていて息苦しくなってくる。しかも、すぐキレてしまうマサオの粗暴さと、言動も、すごく怖い。
そんなマサオの自分の子供時代の虐待画像と、ネグレクトされている鞠とをダブらせる手法。

 マサオは、こちら側からしたら乱暴者でまともに働いたことが無いどうしようもない男だが、鞠からしたら救世主の様な存在になっていく。暗闇のトンネルにいたマリにとって唯一光を与えてくれた存在だから。
 それは、鞠の母親リンにとっても、少しずつ同様の存在になっていく。

 マサオが接した鞠の先生は、鞠を守りたかっただろうけど、マサオの言動はすごく怖かったと思う。

 私達観客は、マサオがどうしてこんな風になってしまったのかがわかるが、実際にこんな人に出会って関わったら、どうするだろう?と考えてしまう。関わらない様に避けるだろうなぁ。恐ろしすぎる。

 マサオには少年時代から救世主は無く、空き巣と刑務所を行ったり来たりしていた人である。マサオに、希望の光は無かった。ある意味、暗闇を歩いてきた人である。
 真面目に働こうとして、履歴書を書いてもムショにいた期間は空白で、そんな人を雇う所はない。刑務所を出た人の約半数は、再犯率が高いという。そりゃそうだ、社会が受け入れないもの。はみ出してしまった人に対して社会は、冷たい。勿論、自分も含めて。
社会がもっと寛容だったら、過ちを償った人にも、光を与えられる様な社会だったら、マサオだって違う人生を歩んでいたかもしれない。そう思うと、とても重たい映画である。

最後、カメラは、川沿いを歩くマサオを上から捉える。エナメル色の川、青い空、遠くの緑。引きのカメラワーク。

観客が、こうなればハッピーだなぁと思う演出を用意している。
それが、「映画の世界」だなあと思う。もう少し、観客の想像力に任せたら良かったと思った。

はなも
pipiさんのコメント
2021年4月29日

コメントありがとうございます^ ^

はなもさんの仰る通り、マサオのような人は真面目に働きたくても働けない事実や、学や基礎教養が無ければ底辺からの脱出手段もわからない事、そんな部分に目を向けてくれる人がもっと多ければなぁ、とつくづく思います。

「寛容さ」は、これからの時代のキーワードかもしれませんね。
年々「社会の寛容さ」が減少しているような気がしています。

pipi