「途中までは社会派ドラマ風(でも深刻ではない)、コメディ(人間喜劇)かもと思ったが、最後はベタな昭和の映画みたいになった。でも泣いた。」ひとくず もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
途中までは社会派ドラマ風(でも深刻ではない)、コメディ(人間喜劇)かもと思ったが、最後はベタな昭和の映画みたいになった。でも泣いた。
①逆境にいる少女を社会のはみ出しものが救うという話は世界の映画史の中でよくある設定。それを児童虐待に落とし込んだところが新味か。②前半は社会派ドラマ風。マリの体に残る虐待の傷に、マサオが子供の頃に受けた虐待のシーンがオーバーラップし、マサオがヒロを殺すところまではなかなかシリアスな展開。しかしその後なんとはないユーモアが隠し味みたいに滲み出してくる。③何か気にくわないことがあると直ぐ「くそアマ!」「ブス!」と罵るマサオのクズさが話の深刻さを中和する。リンも負けずに『あんたの回りブスだらけやね』と負けてはいないところも笑わせる。カフェでのキャットファイトというのも何か可笑しい。④焼肉レストランでの隣の席の親子連れ(娘のこしゃまくれぶりのウザさをよく捉えている)やマサオが空き巣に入った家の主婦と婦人警官との噛み合わない会話。マサオが空き巣で盗んだ時計を持ち込んだ盗品屋の主人と並んだ女の顔。マサオの就職先の運送会社の女事務員を始めとする社員たち。みんな、どことなく可笑しい。⑤最初、マリに焦点を当てた児童虐待・育児放棄を描く社会派ドラマ風だったのが段々マサオの人生を綴る人間ドラマにシフトしていく。その切り替えに当たるような、焼肉レストランで我知らず涙をこぼすマサオにリンがビールを初めて注いでやるシーンが秀逸。⑥決して技巧的な、また端正な映画ではない。前半はなかなか快調だが後半やや平板に流れたところや生硬なところが散見される。しかしどのシーンも丁寧に描かれており、その丁寧な積み重ねが映画の最終部分の盛り上がりをしっかり支える構造になっている。⑦最初は最低の母親にしか見えなかったマサオの母やリンか、後半は段々哀れに思われてくる。親の愛情を知らずに育った子供は、親になったとき自分の子供への接し方・愛し方が分からず、それが育児放棄や児童虐待の温床になっているという問題提起(やや通俗的ながら)はしているが、この辺りは殆んど人情ドラマの趣が強くなっている。⑧ラスト近く、疑似家族になろうとマリの誕生祝いに駆けつける寸前で刑事に逮捕されるところなど誠に予定調和でベタベタである。ラストのラスト、出所したマサオを迎えたマリ・リン親子に加え、車椅子姿のマサオの母親まで登場するところは人情もの以外の何者でもない。でも、それまでの丁寧な描写の積み重ねのお陰で泣かされてしまうのだ。⑨あんな刑事が本当にいるのかわからないが、マサオが空き巣犯だと判りながら捕まえず就職先まで世話する老刑事がいい味。マサオ逮捕のところで、所轄警察と殺人課の刑事との違いをさりげなく描き分けているところも面白かった。⑩育児放棄され虐待を受けていても母親を捨てようとしないマリを演じた小南希良梨の好演も忘れてはいけないだろう。