「戦争という地獄の曼荼羅。」地獄の黙示録 ファイナル・カット すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
戦争という地獄の曼荼羅。
◯作品全体
ほとんどの宗教に地獄があり、そしてその光景は一つの宗教だけでも様々だ。
本作でもベトナム戦争という地獄の中に点在する、様々な地獄の光景を映していく。川に沿って奥へと進んでいく展開は、地獄の底まで降りていくようであった。
物語の始点から地獄は始まっている。アメリカ本土という現世には戻る気もない、地獄の住人である主人公。酒に溺れて部屋に篭り続けている行く宛のない現在地が、そもそも異常だ。
キルゴア中佐率いるアメリカ軍の一部隊は、戦争と悪ふさげを並行している異常さがある。一見統率の取れた真っ当な軍隊のように映るけれど、軍紀の存在は曖昧で、キルゴアの気まぐれな判断に全てが委ねられている異常さがある。
さらに川の奥へ進むと慰安に盛り上がって統制を失った兵士たちの光景があり、その奥には指揮官すらいなくなった軍隊がある。かたや殺害対象であるカーツ大佐の経歴にはお手本となるようなアメリカ軍への誠実さと、規律ある姿勢が見て取れる。目の前にあるアメリカ軍の不誠実さは、個性や人間味としては豊かだが、軍隊としての能力にはどこか欠けた部分がある。カーツ大佐という理想に相対して、目の前にあるアメリカ軍の現状があり、それは地獄で暴れる餓鬼や悪魔のように酷く醜い。
川沿いの奥で出会うフランス人は、この地獄の中で理想郷を作り出そうとしている。しかしその不安定さは一度の会食で露呈しており、ここも地獄となる予感を残す。
進めば進むほどカーツ大佐が作り出した世界は完璧なように感じさせるが、その期待の最高峰にあるのは死体がぶら下がった地獄絵図だ。
どこまで行っても戦争に救いはなく、人の醜さだけがやたらと鼻につく。原題にあるアポカリプスは今まさに行われている戦争にあり、それはおとぎ話ではない、ということを全編にわたって、多種多様に語りかけてくる作品だった。
⚪︎カメラワークとか
・作中の世界から抜けていくようなラストカットのカメラの引きは、同じくコッポラ監督の『ゴッドファーザー』を思い出した。
・ベッドシーンのシーツの使い方、終盤で川の中から浮かび上がってくる主人公、闇の中で語りかけてくるカーツ大佐…全体像の見えないベールに覆われる、みたいな演出が多かった。この地獄の世界が本当に現実なのか、と語りかけてくるような曖昧さ。でも、現実なのだ、という訴え。
⚪︎その他
・主人公に同行する若い兵士たちは、意図しようがしまいが地獄へ放りこまれた「被害者」として描かれる。若さによる軽率な行動が滑稽でもあり、可哀想でもある。その描き方の塩梅がうまいな、と思った。