ザ・レポートのレビュー・感想・評価
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アメリカを強く想う、影の愛国心。
○作品全体
9.11でアメリカが狙われたことによりアメリカの安全保障を志した主人公・ジョーンズ。ともに国を守る活動をしているはずのCIAの暗部に触れ、ジョーンズとそれを取り巻く対立構造がテロリズムではなく国家内部の機関に寄っていく。
大組織との複雑な対立の中でもジョーンズの正義心そのものは変わらず、アメリカの暗部を公に示すことが目標となるから、終始「レポート」の存在や目的がブレなくて、見ていてわかりやすい。実際の拷問は熾烈なものであるが、ジョーンズ自身は暗い地下室で黙々と真実を探す…この骨太な対比も面白かった。
単純な目線で見ると、拷問をしてそれを隠蔽しようとする政府やCIAは悪の存在にも映るが、アメリカを守るために、アメリカの信用失墜を回避するために…という正義心も孕んでいて、単なる悪と断定できないところがジョーンズの仕事を複雑にしていて、その構造が物語の推進力になっていた。
真実の探究も、行きすぎた行為も、それを隠す工作も、すべての書き出しに「アメリカのために」という言葉が入る。その愛国心は危うさでもあり、大国の抱える病の一つを的確に描写していた。
肥大化した正義が抱える闇を取り繕うのは、公文書を覆う黒いマーカー。終盤、上院議員がスピーチで「おおやけにすることで、それを理由にアメリカを攻撃してくるものもいるかもしれないが、おおやけにできる大国でありたい」というような話をするが、マーカーをそのままにしても、剥ぎ取ったとしても傷口が残る状況を端的に表現していて印象的に残った。
傷をつけようとも、傷が悪目立ちしようとも「国のために」と裏舞台で熱意を秘めて動く。徹底した(執拗な、とも言える)その姿を黙々と捉え続ける本作には、静かな熱意で溢れている。
○カメラワークとか
・画面の暗さがさまざまな場所で繰り広げられる「暗躍」の情景を引き立てる。BGMも控えめで、陰に触れてる感じが面白い。
○その他
・ラストにジョーンズの功績を饒舌に語るテロップは語りすぎだなあと感じる。
作中で報告書が公表されることの困難さというのは散々描写されてるし、どれだけ時間をかけているか、ということもシークエンスごとに挟む年数の表示でわかる。なにより物語が実際に公表するところまで辿り着いてるんだからいらないんじゃないかと思う。
ラストで一人ワシントンの街を歩くジョーンズの姿は「持て囃されるような功績ではないけれど、キッチリとケリをつけた男の帰路」として的確に描写していた。黙々と仕事をこなした仕事人の渋さがよく出てる。そこにベッタリ調味料をかけるようなテロップ…というような具合に感じてしまった。
CIAの悪さ
実話にもとづいた映画ですが、9.11周辺の出来事に興味がない人には、ストーリーや人物関係がわかりづらいかもしれません。とにかく、スピーディーに淡々と進んでいきますから。自分はドキュメンタリー(米国拷問プログラムの闇)を見て、この映画にたどり着いたので、わかりやすかったです。しかし、細かい点はわからないまま見ても理解はできるようになっています。(どうやら、劇場公開されてない、Prime Video配信作品のようです)
9.11同時多発テロ後にアメリカがアルカイダを潰すために、テロ容疑者たちを収容。そこで、CIAが考案したEIT(強化尋問技法)を実行するが、「尋問」とは名ばかりの「拷問」は秘密裏で行われていた。上院議員のダン(アダム・ドライバー)がその辺りのことを調査してCIAの闇をあばく話。
膨大な資料を一枚一枚、チェックしていくという地味で気の長い仕事。死に物狂いとはこのこと。おおよそ6年もかけて任務に挑む姿を見ていると、その大きな権力に立ち向かう重圧感が伝わってきて見ている方まで疲労感に見舞われます。
先に書いたように、ドキュメンタリー映画を見てすぐに、こちらの映画を見たので、オーバーラップする部分がいっぱいあります。そもそも、そのEITという尋問は効果があればそれでよかったのか!?だいたい、9.11事件後の拡大を抑えるためといえども、テロ容疑者を勝手に収容してもよいのか?!(法律に基づいて逮捕したわけではない)また、後にはビン・ラディン殺害自体にも疑問が沸いてきます。
余談ですが、『米国拷問プログラムの闇/THE FOREVER PRISONER』というドキュメンタリーがU-NEXTで配信されています。U-NEXTにサブスクしている人で興味がある方はこちらもおすすめです。映画のようにCIAを暴くというストーリーではないので決して溜飲が下がるわけではないですが。淡々と恐ろしい事実を映していくという感じです。映画でも出てきた「アブ・ズベイダ」というテロ容疑者を中心に、実際のCIA関係者や心理学者(EITを考案した)などのインタビューが進んでいきます。
不都合な真実
元のタイトルはTHE TORTURE(拷問) REPORT、TORTUREを消したのは、実際の報告書が一部黒塗りにされたことへの揶揄でしょう。
9.11のテロの後、CIAが疑わしいアラブ人をタイの軍事基地に監禁し水攻めなどの拷問を行っていたことは、当時、ニュースでも流れていました。あれだけのテロですから、アメリカもなりふり構わずだったのでしょうと、正直、あまり責める気にはなりませんでした。
ただ、自由と民主主義を唱えるアメリカ国民にしてみれば、非人道的な野蛮な行為はプライドが許さなかったのでしょう、上院情報委員会の委員長ダイアン・ファインスタイン上院議員が主導して部下のダニエル・J・ジョーンズ(アダム・ドライバー)を中心にCIAの暴走を暴く6,200頁もの告発レポートを書きあげました。
ジョーンズに冤罪を着せ捜査を逃れようと必死のCIA、フィクション映画ならとっくに事故死に見せかけて消されていたかもしれないシチュエーションでしたね。あまりの妨害にマスコミへのリークなど葛藤する主人公、それでも何とか議会の承認を受け公開に漕ぎ着けました。
抵抗勢力の共和党にもベトナム戦争で捕虜になり拷問を受けたマケイン議員がレポート公開、断罪指示に回ってくれたことも助けになったのでしょう。
本作は、いわばアメリカの汚名返上、名誉挽回への不屈の取り組みを描きたかったのでしょうが、エンドクレジットで多くのCIA関係者がお咎めなし、それどころか長官にまで出世と出ました。長官になったのは当時、タイの秘密施設の所長だったジーナ・ハスペル、トランプ政権で女性初のCIA長官に登用されました、トランプ政権下だったら、レポートは陽の目をみることは無かったでしょうね。
正義とは…
国を、国民を守るためには何をやっても良いのか。テロリストなら人権を侵害しても良いのか。映画に出てくる拷問シーンはかなり見るに耐えない残酷なものだった。人の道に反するものだった。拷問をして、何一つテロを未然に防いだものが無いというのが衝撃の事実。ゼロ・ダーク・サーティでも水攻めのシーンがあるが、非人道的行為をした結果、得られる情報もあると普通に思っていた。FBIが示した信頼でこそ得られるのかも知れない。映画では主人公ダニエルの日常や趣味嗜好が全く描かれず、ただ単に仕事に没頭し、終わりの見えない真実の解明に突き進む姿を描く。民主党、共和党の政治情勢に大きく揺られながら、そして自らが罪に問われる危険に晒されながらも、信念を貫き通すダニエルが凄い。隠蔽しようとするのもアメリカだが、その事実を公表するのもアメリカであり、こうした映画を作るのもアメリカで、色んな意味で凄い国だと思う。愛国心とはを考えさせる硬派な作品。
最も重要なのは過ちを犯したと気づいた時に何をするか
テロリストによってそれはそれは多くの国民の命が残虐に奪われた時、そしてもしその中に親しい人の命があった時、私は国家に何をしてほしいと願うだろう?と思う。いろいろと思い浮かべる中には、復讐を期待する気持ちもあるのかもしれない。倫理や理性を脇に置いて感情だけで考えたなら、犯人をこらしめてやりたい、痛めつけてやりたいと思うかもしれない。
EITと名付けられた壮絶な拷問も、劇中で主人公が言っていた「国の最高情報組織として国民を守れなかった怒りや不安」によって突き動かされたものかもしれない。しかしそれはやってはいけないことである。弁護の余地はない。言うまでもないことだ。映画は、冒頭ではこの拷問行為の悍ましさをまず最初に問題提起する。しかしすぐにそれは本来の主題ではないと示してもくる。その拷問行為の背景にある、CIA及びアメリカ国家が内包する暗部をスクリーンに導き出すことこそが映画のテーマなのだろう。そしてもちろんそれは、日本に住む私にとっても対岸の火事ではない題材だった。
もはやただの拷問でしかない行為を「高度尋問テクニック」と尤もらしい名称で呼び、まったく尋問の成果も果たさないにも関わらず、殆ど頓知でしかないような屁理屈をこねくり回して無理やりその成果を捏造。そこにはもう既に正義などは存在しないし、その行為を「正義感から来る復讐心だった」と言い訳することも無理難題というところまで来てしまう。そしてそれを暴き出した上院職員の存在に対し個人攻撃をはじめ、論点をずらして泣き寝入りを狙う姑息さに至るまで、大きな権力を持った大組織の恐ろしさと厭らしさに寒気がするようだ。
人は誰しも間違いを犯してしまうものだ。ただ問題は「過ちを犯したと気づいた時に何をするか」なのだということを、この映画を観ながら改めて感じた。間違いに気づいた時にその過ちを正し軌道修正できるのか、それが過ちだと気づかれぬように裏工作するのか、それとも保身に走って隠蔽しなかったことにするのか。
この場合、辛うじての救いは(それぞれ腹に抱える何かしらはあれど)きちんとこの出来事を公にし、謝罪と反省の弁を打ち出したことだろうか(ただこの件に関与したCIA職員たちは責任を取るどころか昇進までしているというからまだまだ闇は深いが)。
この深刻な題材に対し、感情的になるのはアダム・ドライヴァー演じる主人公に任せた上で、それ以外は演出も脚本の筆力も極めて冷静沈着に、じっくりと物事を見定めるようにして物語が展開する。実際に彼らがやっていることは「レポート」つまり調査書をひたすら読み解き事実を炙り出していくという、おおよそ映画になりにくい行為だ。しかしそれこそがこの映画の醍醐味だと言えるのではないか。一枚一枚資料をめくり、一頁一頁データをスクロールするという小さな小さな力の積み重ねが、アメリカ国家とCIAという大きな力を動かすに至るのである。そして映画はその積み重ねをしっかりと押さえていく。高い緊張感のある作品ながら、丁寧な展開の描写で吸い込まれるように見入る堅実な映画だった。
どっちが悪者やねん
9.11テロ事件後、CIAが「強化尋問プログラム」と称して拷問を行っていたことを調査したアメリカ上院議員の実話。
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この映画のポスターの題名、"The Report"の間が赤で塗りつぶしてあるんだけど、その中には"torture"(拷問)って書いてある。
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これ塗りつぶしてあるのはアダム・ドライバー演じる議員が報告書を提出していざそれが公表されるか?ってなった時にCIAの監査が入って半分以上がペンで塗りつぶされてたことを皮肉ってるんだと思うけど、私このセンスすっごい好きだな。
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この拷問の内容もかなり酷いのよ。そんな拷問って映画の世界の中だけじゃないのレベル。テロの操作してるはずなのにどっちが悪者か全然わかんないよ。
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内容はアメリカの議会の仕組みとかを知らないとちょっとわかりにくいかも。でも分かってなくてもそうなんだぐらいで流しても全然楽しめる。ただ、ちゃんと見てないとほんと置いてかれるからあつ森しながらとかで見ないで。
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それにしても9.11周りに関してはアメリカってほんとに問題が多いんだな。日本も3.11周りは叩けばホコリが出てくるんじゃないかな。
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