劇場公開日 2021年3月20日

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「【祖父は第二次世界大戦の深い哀しみを精緻に記した日記を残して、逝った。”あるモノ”を山中に埋めて・・。現代”物質主義社会”と、右傾化が止まらない世界に対する、強烈なアンチテーゼを発信する映画である。】」コントラ KONTORA NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5【祖父は第二次世界大戦の深い哀しみを精緻に記した日記を残して、逝った。”あるモノ”を山中に埋めて・・。現代”物質主義社会”と、右傾化が止まらない世界に対する、強烈なアンチテーゼを発信する映画である。】

2021年5月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

幸せ

ー モノクローム画面で描かれる、”何もない”田舎の風景。
 3人暮らしの高校生ソラ(円井わん)と父(山田太一)と祖父。だが、ある日祖父が急死して、”只管に後ろ向きに歩く”ホームレスのような男が現れた・・。ー

■感想<Caution! 内容に触れています。>

・アンシュル・チョウハン監督がモノクロームの画面で描き出す、凡庸な田舎で暮らすソラ達の姿、沁みだすような寂寥感溢れる世界観に魅入られる。
ソラの粗野な態度の理由も、徐々に分かって来る。
ー 彼女は、母が亡くなり、唯一の”目を見て”話を聞いてくれていた祖父を亡くして、寂しかったのだ・・。何かに苛立っていたのだ・・。ー

・祖父が遺した第二次世界大戦の出来事や、チラシを張り付けた日記。精緻に書かれた兵隊たちの姿。
何故、祖父はこの日記を大切に保管していたのか?
そして、その日記に書かれていた事を読んだソラは、翌日から学校へも行かずに、山中に入り、土を掘り始める・・。
ー 軍用金か何かと思った父の従兄たちの姿が、醜い。金にしか目が無い男たち・・。ー

・一言も話さない、謎の只管に後ろ向きにしか歩かない男。
 ー 少し、状況が推測出来るようになる。
   男は、第二次世界大戦で、深い哀しみや悔悟を抱えたまま死んでいった日本の兵隊を”象徴”しているのではないか・・、と。ー

・男が、日記の余白のページに精緻に描いたソラの笑顔。そして、記した言葉。眠りこけるソラの父の頭を叩いて、家を出て、前を向いて走り出す男。
 ー 男の実態が分かるシークエンス・・。見事な作品構成である。ー

<作品から、発せられる現代”物質主義”社会への痛烈な批判と、強烈な反戦の意志を観る側に投げつけてくる映画。
 ラスト、ソラが大岩の上で大空に向け撃つ銃声が、多大なる警鐘に聞こえた作品。>

<2021年5月9日 刈谷日劇にて鑑賞>

NOBU