ジョゼと虎と魚たち(2020・アニメ版)のレビュー・感想・評価
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言葉の多義性を存分に生かした見事な作品
フランソワーズ・サガンの小説は、有名な「悲しみよこんにちは」「ブラームスはお好き」それに「熱い恋」を高校生のときに翻訳で読んだきりだ。濫読、多読、卒読の時期だったこともあって、内容は憶えていないし、心に残る言葉もない。本には相性というものがあり、自分に合う著者と合わない著者がいる。同じく高校生の頃に読んだ本では、ニーチェやショーペンハウエル、サルトルなどの本の言葉は記憶に残っているのに、サガンについてはまったくの白紙である。本作品では清原果耶がとても上手に声優を務めたジョゼが、自分の部屋でブツブツと、おそらくサガンの小説の言葉を呟くシーンがあるが、ちっとも響いてこない。サガンを憶えておけばよかったと思った。
原作の田辺聖子は古くはSF作家の筒井康隆と交友があったようで、筒井の本に「おせいさん」と呼ばれて仲間から親しまれていたと書かれていたと思う。本作品の原作を書いたのは1984年、おせいさんが56歳のときだ。社会的にセンシティブな問題を人間の生活に直接的に結びつく問題として正面から扱っている。作家はときとして蛮勇を発揮して批判を恐れずに小説を書かなければならないことがある。おせいさんは勇気のある作家であった。同時におちゃめな人でもあって、主人公の名前を連合赤軍のテロリストと同じにしたのはおせいさんの悪ふざけかもしれない。
本作品は優れたラブストーリーだ。真っ直ぐな青年恒夫と自由を求める不具の女性ジョゼを中心とした半年程度の人間模様を描く。恋愛には邂逅が必要だ。本作品では出逢いの場面、求める自由の舞台が海であること、そして再度の出逢いの場面と、3つの邂逅が描かれる。ご都合主義だと言われるかもしれないが、大恋愛には奇跡が必要なのだ。
原作を軸として大きく想像を広げて上手に脚本を書いていると思う。担当した桑村さや香さんは、いじめを扱った問題作の映画「滑走路」でも脚本を書いていて、言葉の選び方がとても上手だ。ここではこの言葉だろうと思う台詞をど真ん中できっちり書く。変に飾らないところがいい。人が死んだら「死んだ」「亡くなった」と書けばいいのであって「魂が天に召された」などと書くものではない。その点、桑村さや香さんはよく分かっている。
本作品も直球の言葉ばかりで無駄がない。観客はどこまでも想像力を広げられる。だから観客それぞれの想像と実際の映像が重なって、多くの人が感動する。そして人生に前向きになれると思う。人それぞれの感動をひとつの作品で湧かせるのだ。言葉の多義性を存分に生かした見事な作品である。
まさかとは思ってはいたが、マジでやりやがったな
アニメ版は原作、実写を見ている人と、そうではない人でかなり意見が異なる作品ではないかと思っています。
私情を抜きにするならば星三つを与えても良かったのですが、そうはいかないため星二つにしました。
私がアニメ版を見るに至って一番心配していたことは、毒気のようなもの、つまりは障害者を取り巻くリアルが取り払われてしまうのではないかということでした。
そしてその心配は見事当たりました。予告を見ていた時点でなんとなく予想はしていましたがね。
この作品が描いているのは主に2つであり、それはもちろん恋愛と障害者です。
実写と原作では特に障害者という社会のマイノリティに焦点を当てることに力を入れていたことは、見たことがある人には分かると思います。
障害者差別ももちろん描いていましたが、同情しながらもそれはある意味では憐れみとも捉えられる悪気のない健常者の言動。そして障害者への性的被害。
こうした障害者の残酷でリアルな現実がどちらでも描かれていましたが、アニメ作品においては途中からはほぼ皆無でしたね。単なる恋愛アニメじゃねぇか。なんで障害者をテーマに扱ったのか。
私が本気でちょっと待てよと思ったのは、主人公の恒夫が事故に遭ったシーンです。このアニメは最初はヒロインのジョゼが差別にあう姿を少しは描いてはいましたが、恒夫が事故に遭ってからは、恒夫がいかにそれを克服するかに話の軸がすり替わりました。
え?てなりましたね。いやもうジョゼの障害についての話はどうでもいいの?そりゃ事故も大変だけどさ、障害についての悩みや葛藤はここで終わりってか?いやいや、そんな軽々しく扱っていいような内容なのかね。マジでなんでそんな話の展開にした?
ここが一番気になりましたね。
本作品の話はここまでにしておいて、最近の劇場版アニメに顕著ですが、わかりやすい・泣けるのこの2つに拘りすぎじゃないですかね。
新海誠の『君の名は』以降、この2つを取り込んだ作品が本当に多い。
まぁ、そりゃ王道ですから観客を呼び込みやすいのは理解できますけどそんな手抜きじゃ、いつかどでかいしっぺ返しを食らうんじゃないですかね。
素人の私が言うのも悪いですけど、わかりやすい・泣けるを盛り込んだ作品なんて、誰でも描けるんですよ。しかもその二つを際立たせるために、スパイスとして障害者を利用している点で、この作品は罪深い。
泣かすなんて簡単ですからね。映画館で周りを見ても誰も泣いちゃいないのに、SNSでは「泣いた!」の嵐ですかね。バカバカしい。
あとわかりやすいてのは果たして本当にいいことなのか。今は効率化、簡略化が求められる世の中だと思います。それは仕事にせよ、娯楽にせよ、はたまたメディアでも同じことがいえると思います。そりゃ便利ですから、そうなるのは仕方ない。
でも、わかりやすいってのは楽をするということではないです。
簡単に売れるから楽をして、みんながわかりやすい映画を作り出したらもう終わりです。個性と発展がなくなるからです。
自分の思い・考えを混ぜ込みながら、挑戦し続ける作品こそ、映画史において価値をもつモノとなります。
そうしたことを忘れないでほしいと思いました。
アニメのいい部分と残念な部分
畳の目は乗算で。
閉塞感を抱える若者にとってのファンタジー
多くの映画ファンの心に印象深く刻まれた2003年の実写版から、扱い方を間違えると毒にもなりかねない複雑な感情を上手く浄化して明るく爽やかな青春映画に仕上げたように感じました。
声優を務めた中川さん、清原さんも見事にハマり役で、完成度は文句無し❗️
一方で、世の中のことをよく分からなくても純粋に夢に向かっていく、という選択が、今思えば大らかに許されていた時代のファンタジーのようでもあります。
この30年ばかりで、世界も日本も目先の生産性や効率を重視する『今だけ、金だけ、自分だけ』の経済活動が主流になってしまいました。
結果として、個人に巡ってくるチャンスの割り振りが経済格差をかなり反映する状況が出現しました。
だから、今の若者の一定数の人にとっては、一種のファンタジーとしてしか受け取ることができなかったのではないか。そんな危惧を抱いています。
団塊の世代から50代、40代の大人たち。
今の社会システムを直接間接に作り上げてきた世代の人間が(もちろん、私もその一人です)、若い世代の閉塞感をもっともっと想像しなくてはいけないのではないか。
今、そんなことを考えています。
2020年に暴力系ヒロイン!?
2020年にもなって見た目麗しい暴力系ヒロインアニメをまさか劇場で観ることができるとは思わなかった。最近は女性も気楽に鑑賞できるアニメ映画も増えてきたので、新しい層への希求として一種の揺り戻しが来たのだろう。
というのは、女性向け妄想作品としての色が強いと感じたからだ。
ヒロインははかなげな美人で、わがまま放題の割には優しく辛抱強く接してくれる男性がそばにいる。芸術の才能もあり障害を抱えているという尊重されるべき存在なのに、「虎」こと無理解で粗野な男性がヒロインの精神をむしばむ(作中の女性は舞以外全員ジョゼの味方)。
さらには優しい男性がヒロインと同じ境遇に陥ってしまい、完全に気持ちをシンクロさせたうえでついにヒロインは優しい男性の心の支えになる。あろうことか恋敵からの叱咤激励まである。
これは男性向けでいえば、転生して超強い能力をゲットして女性に軟派な言動をとっていたらなぜかモテまくってハーレムを築くくらいのご都合主義である。ToLoveる以上。あと、PとJKやスイッチガールもこんな感じだった気がする。
とはいえ、上記のような妄想に胸やけがすることはない。画は美麗で、登場人物にはきちんと血肉が通っている様子が感じられたからだ。
特に、想像の赴くままにジョゼが人魚に姿を変え、空想の海で自在に泳ぐシーンは非常に美しい。そのほかにも、四季の移ろいや恒雄のプレゼントお披露目、そして何より絵本の絵。観る者の嘆息を誘い、くぎ付けにするだろう。それほどに美しい。
暴力系ヒロインに抵抗のない方はぜひ。
実写版とは全く異なる展開にホッとしました。
実写版では、いわゆる「ハッピーエンド」ではなく、主人公の恒夫の設定も、アニメ版のように真っ直ぐで誠実ではない。最後まで一緒に暮らそうとする気合いもなく、結果別れる(「逃げる」)ことになる。「いつまでもここにいて欲しい」と彼を頼ったかつてのジョゼは、もういない。障害者が身寄りをなくした時の不安定さは解消されないまま、彼女は一人で生きていく決心をする。
翻ってアニメ版では、ジョゼの周囲の人々は優しくて、理解に溢れている。かつての社会状況とはかなり違いがあるためなのだろう。恒夫が足に障害を残すかもしれないところで、ジョゼは、彼の夢の後押しもする。実際は、障害者をめぐる環境は、「37セカンズ」や「岬の兄妹」などで描かれる限りでは、絶望と期待が入り混じったものになる。アニメ版のような健常者と障害者がお互いに理解し合える社会になればと願っている。
観て良かった。最近のベスト。オススメ。
ストーリーがシンプルで分かりやすく、テンポも流れも自然で観やすい。ベタな展開も何故か許せてしまう。
良いか悪いか、障害者の問題云々という点がジョゼと恒夫の恋愛の障害に感じられず、ラブストーリーに集中して観ていました。
一番の泣きポイントはジョゼが自作の絵本を読み聞かせるシーン。不器用な彼女が今までの想いを全て綴った最高のラブレターでした。
映画好きなら誰でも知っている、鑑賞後の幸福感を与えてくれる作品。たくさんの人に観てもらいたいのに上映館が少ないのが残念ですね。
とても素敵な作品でしたよ。ぜひ観に行ってください。
公開2日目に鑑賞しました。
観客は多いとは言えませんが、とても良い作品で、観た後の気持ちも爽やかでした。
Eveの主題歌「蒼のワルツ」、挿入歌「心海」もストーリーにマッチしています。全体の音楽をEvan Callが担当していて、彼が担当した「劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン」を最近観たばかりなので、オーバーラップしてとても不思議な気持ちになりました。
現実の生活は厳しいですが、物語の世界だけでもジョゼと恒夫のようなピュアで繊細で、前向きな体験をするのも良いことだと思います。
そんな体験をするために、もう一度、観に行くつもりです。
きっとリピーターは多いと思いますし、観た人から周囲に広がっていくと思います。
タイトルがオシャレなだけ。
好きな作品
心理描写具合がちょうどいい。
主な登場人物がいい子なのがいいです。
アニメーションならではの感情の動きの表現で、登場人物の気持ちに触れることができます。
好きな作品の一つになりました。
【人魚の願いは"心の翼"を自ら持つ事、大切な人に持って貰う事。健常者には分からない世界を、優しき視点で描き出した作品。】
■内容は人口に膾炙していると、思われるので割愛・・と思ったが、かなりアレンジメントされており、それが良い結果につながっていたと思った作品。
◆印象的なシーン及び映画の内容
・ジョゼの声を担当した清原果耶さんの透き通った声の、ツッケンドンな感じの関西弁が、良い。
ジョゼの勝気だが、哀しみを抱えた女性の声に合っていると、私は思った。
- 関西弁の女性に、男は弱い・・。ー
・ファーストシーンのジョゼと恒夫の”衝撃的な”出会いとラスト近くの雪道での衝突シーンとの連関。
- ここは、”都合が良いのでは?”とか言わない。ー
・クラリオン・エンゼルフィッシュのランプを、恒夫がジョゼに渡すシーン。
- 彼が、ジョゼへの仄かな想いを持つことと、ジョゼが”恒夫が本当に海を愛している事、メキシコ留学を強く望んでいる事”を初めて理解した事を暗示している。
そして、このクラリオン・エンゼルのランプは後半でも、重要な場面で登場する。ー
・ジョゼを守るために、交通事故に遭ってしまった恒夫。
- 分かりやすいが、恒夫はこの体験で、ジョゼの辛さを自ら経験する事でジョゼへの想いが更に強くなるのである。-
・恒夫を慕う、"ダイビングショップ"のアルバイトの同僚マイと二人の友人、ハヤトの存在の重要さ。
- ジョゼに対する恒夫の想いを薄々感じながら、車椅子を押しながら恒夫に告白するシーン。健気である。はっきりとは描かれないが、彼女がハヤトとの良好な関係性を築けると良いなあ・・。相性が良い気がするが・・。-
・ジョゼが独り立ちするために、勇気を持って図書館で、自ら書いた”人魚の願い”の絵本を子供たちに読み聞かせするシーン。サガン好きの司書カナの存在も、この作品に良い効果を齎している。
そして、そこに、ハヤトが事故に遭い、メキシコ留学を断念しかけた恒夫をきちんと連れてくる。
恒夫はジョゼの絵本からのメッセージを強く受け止め涙する。
- 今作の白眉のシーンである。二人が喪失感から再生へ向かうきっかけにもなっている。-
<田辺聖子さんの短編、実写映画、及び今作品。私は、書籍(サクッと読めます)を随分前に読み、実写映画も観ているが、
今作品は、原作の世界観を壊さずに、一つの作品としての完成度が高い”素敵な現代の恋愛映画”にアレンジメントされている。良いです。
あと、映画はエンドロールが終了し、客電が灯るまで、席を立たないように。
今作も素敵なシーンが待っています。>
■蛇足
・ちなみに私は妙齢な女性の京都弁にからきし弱い・・。すいません、例年なら今頃は、京都で呑んでいるもので・・。寂しい・・。
・ご指摘を受け、一部修正しました。「サーフィン屋→ダイビングショップ。」
見やすくバランスの良い恋愛もの
原作や実写映画は見ていませんが、とても見やすくて面白かったです。
ストーリーが暗すぎることもなく、車椅子の大変さなど、リアリティとのバランスもほど良く、スッと入り込めました。
空想と本物の海という点で繋がる恒夫とジョゼの関係も良いし、紙芝居のシーンは不覚にも泣きそうになりました。
伏線もしっかりしてます。
個人的に「健常者には分からん」って台詞は刺さりました。
バイト先に行った後にへそを曲げるくだりは舞への嫉妬だと思ってましたが、漫画版を見ると健常者への嫉妬なんですね。
とは言え過度にストレスかかるシーンも無いため、また見たいと思いました。
個人的におばあちゃんのくだりは聲の形を思い出してしまい、あぁこのパターンか..と思ったのが悔やまれました。
主観ですが、恋愛ものにありがちな「よくよく考えるとこんな奴いないだろ」というのが無かったのも良かったです。
爽やかで素敵な映画、優しい気持ちになれます!
アニメ化と聞いて20年近く前の実写版を先日観てからの鑑賞。
率直に言えば(原作未読なのでストーリー的にどうかは語れませんが)全く違った料理法で優れた素材を美味しく仕上げた!みたいな感じです。実写もこちらも切ないラブストーリーに年がいもなくキュンとしてしまいました。
綺麗な映像と実写よりも海を前面に感じられ『魚たち』感満載でよかったです。
外の世界は怖いもの『虎』ばかりっていうお婆さんの言葉がこの作品のタイトルでの意味あいを実写版よりわかりやっすくしていると思いました。
『宇宙で一番~』で清原果耶さんを初めて知って将来有望な若手女優がまた一人でてきた!って思いましたが声優としてもジョゼを見事に演じられびっくりしてます。
中川大志さんも『ステップ』でのウォーリーを探せ!的出方で少しストレスをためていたのか声優として恒夫の心情を素晴らしく演じられていてました。『家政婦のミタ』で初見のイケメンお兄ちゃんも着々といい役者さんへの道を歩まれているようでお父さん的には嬉しい限りです。
エンディング曲もよかったですね。Eveさんですか?(~ちゃんの花びらじゃないですよね?!ってわからないですよね~)ハードロック系と思ってましたがバラードもいいですね。エンドロール後のエピローグとともに清々しい気持ちになります。
原作自体古いのでジョゼが『あたい』って自分を呼ぶのがはすっぱな感じがして少し違和感がありましたが、大阪ではいまでも自分をこう呼ぶ人がたくさんいるんでしょうか?!40年近く前、バイト先のお姉さんが『あたい』って実際に言ってて当時でも驚いたのを思い出します。
♪あんたとあたいの出会いの場所は~いつものスナック片隅よ♪って歌がコッキーポップで流れてましたがつい思い出しました。今では桃井かおりさんか中島みゆきさんぐらいしか似合いませんよね。
実写版と比較するのは邪道!って断言できるくらい素敵な映画を、年末まで数日しかない今、心の癒しになる作品として観ることができとっても幸せです。
とりあえず好き
想像と違い、全てが素晴らしい‼️
観てよかった
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