「事実は小説より・・・〜別の世界に飛んでいった原田………137メーター!〜」ヒノマルソウル 舞台裏の英雄たち pipiさんの映画レビュー(感想・評価)
事実は小説より・・・〜別の世界に飛んでいった原田………137メーター!〜
本作は、もう映画としての出来の良し悪しとか、そんな事はどうでもいいと思う。
脚本がどうだろうが演技がどうだろうが「事実」の上には全てが霞む。
・リレハンメルにて原田の失敗
(100m越せば金。普段130mを出せる原田だから日本中の期待は大きかった)
・長野、原田が飛ぶ直前の悪天候。
まさかの79m。日本4位への転落。
・競技再開条件は、悪天候の中、テストジャンパー25名が1人も失敗しない事。
この「悪天候・25人全員成功」という条件が突き付けられた事。
それを全員が成功させたという事実。
事実は小説より奇なり、とはまさにこの事。
奇跡的な現実ではないか。
これ以上のドラマは、歴史の中にもおいそれとは転がっていない。
しかも、こんな凄い話が、世に知られる事もなく、関係者の記憶の中だけで忘れ去られようとしている・・・。
そこに脚光を当てた事が本作の、何よりの意義である。
(以下、映画内に描かれていない事実)
長野オリンピックを観戦する為には、駐車場から約1時間の距離を歩かねばならなかったそうだ。しかも、この日は吹雪。雪の降らない地域から子連れで来た人々も少なくない。
つまり、あのジャンプを目撃した人々の中に「軽い気持ちでフラッと訪れた観客」は誰もいない。
子供を抱き、あるいは手を引いて、吹雪の山道を雪中行軍よろしく、1時間近く歩ききった「覚悟のある人々」ばかりだったのだ。
だから原田の1回目に対し、非難する観客は誰もいなかった。
映画内では「また原田かよ」という観客の台詞もあるが、実際にはそんな事を言う客は誰もいなかったそうだ。
なぜなら、原田が飛ぶ直前、あまりにも雪が煙って、ジャンプ台も原田の姿もまったく見えなかったというのだ。
観ている方ですらそうなのだから、生身で時速90キロに及ぶ滑走をしている原田は如何ばかりだったろう。
落ちていく原田を見て、多くの人は
「今のは仕方がない」「当たり前だ」と思ったそうだ。
しかし、人間の眼とTVカメラの解像度は違う。全国に流された映像は、僅かに霞む程度で鮮明に見えた。
まるで現場までが原田を非難しているかのような誤った認識の空気が、日本中に広まっていく。
(現場には「寒くなったから帰ろうよ」などという客はいない。テストジャンパー達同様に、帰路もおいそれと帰れる行程ではないのだから。
皆、何が起こっているのだろう?という目で、この不思議な飛行隊を眺めていたそうだ。白けた空気は少なく、皆が心の中で選手達を応援していた。
当時、プライベートで市井の一観客として現場で観戦していたルポライターさんが、本作に対して「観客なめるな」と書かれていたw
まぁ、中には怒りを覚えたり、帰ろうとしたりという人もいたのかもしれないが。
映画脚本制作関係者はこの事実を知らなかったのだろうか?参考情報提供者は大会関係者でそこそこ地位もあるのだろうから、車移動も可能だっただろうしねぇ)
テストジャンパーの皆さんは、金メダルへの道を切り拓く為、命懸けのジャンプを敢行してくれたのだ。
最初に飛んだ勇気ある少年は、映画の南川ではなく、まだ高校生の梅崎慶太くんだった。凄まじいプレッシャーだったろうに梅崎選手は完璧な着地を決める。
(つまり南川だけは、ストーリー演出の為に創作された架空のキャラクターという訳ですね。)
映画内で小坂菜緒が演じた小林はやはり当時17歳だった葛西 賀子選手の事だ。(現在は吉泉トレーナーとご結婚され吉泉姓)
聴覚障害のある高橋竜二選手は実名のまま役名になっている。
無事に24人が見事に飛び終え、西方選手の番になった。実は、この時点でテストジャンパー達には知らされていなかった重大な事実がある。
「再開の条件」は、もう一つあり、それは「西方が、大会選手並みの大ジャンプをする事」だったそうなのだ。
西方本人が知らないのだから、もしも失敗回避を優先して無難に済ませようとしていたら、大会続行は無かった!
そして、西方選手はなんとK点超えの123mという大ジャンプを見せてくれたのだった。(後に西方は語っている。安全を証明する為のジャンプなのだから、少しでも大きく飛ばなければ。ここまでみんなが踏み固めてくれたのだから、今度は自分がメダルに繋がなければ、と。)
原田選手が、西方選手のアンダーウェアと葛西選手のグローブを借りたのは映画のようなギリギリのタイミングではなく、もう少し早い日の事だったらしい。
「今度は高いか? 高い!
高くて……高くて、高くて、高くて。
いったあーーー! 大ジャンプだ、原田ーっ!
すごいジャンプを見せました! 原田っ、ここ一番で大ジャンプを見せました、原田っ…………まだ距離が出ない………もうビデオでは測れない。
別の世界に飛んでいった原田……………137メーター!!!!」
日本中が興奮に包まれた。
「俺じゃないよ。やっぱりチームメイトみんなでね。うん、頑張って。
俺じゃないよ、みんななんだみんな。お客さんもみんな頑張ったな本当に……うわああ、だめだあ、ちくしょう、嗚呼!」
泣き崩れながら、嗚咽のまにまにインタビューに答えてくれた原田の姿は忘れられない。
西方がオリンピックに出られないきっかけとなった腰の故障は、長野オリンピックからルールが「スキーの板の長さ上限が「身長+80cm」から「身長の146%」に変更された為、それに合わせた練習が腰に無理な負荷をかけたらしい。
板の長さが変われば、バランスを取る為の身体部位も変わる。これまで使っていなかった部位に新たに強烈な負荷がかかるわけだから故障を招くのは自明だろう。
それなのに、他にも2004年冬からは、選手が軽量化の為に無理な減量をしないようにと、BMIによって板の長さを144%や142%に制限するルールが出来た。
2011年にも長い板を履く為の制限がBMI20.5から21に引き上げられる。
この0.5%という小さな変更が与える影響は凄まじく大きい。世界大会で金メダル常連だった日本選手達は次々と調子を崩していく。
ジャンプ競技というものが、如何に繊細なスポーツであるかが、わかるというものだ。
スキー連盟や大会組織委員会などに翻弄されながら、ストイックに練習に励んでいる選手の皆さん方にはまったくもって敬意を抱くばかりだ。
この映画は「25人全員がジャンプ成功させねばならない」というシーンに至る以前の場面の出来不出来は正直どうでもいい。
すべては「25人成功が条件」という驚愕の事実を引き立てる演出になっていればそれでいいのだ。
23年間、長野の雪中深くに埋もれ、このまま人の耳目に触れることも無くなったかもしれない、この珠玉の逸話を掘り起こし、太陽の下に晒してくれただけでも高い価値があるだろう。
星は映画作品としての評価よりも、その「価値」につけた。
わかりやすい再現ドラマになっている
ので、どなたにも一度は視聴して欲しい映画である。
pipiさん そうだったんですね!私も先日観た映画が納得行かなくて 数日間必死(笑)に調べた事があるので、そのお気持ち解ります!
>脚本がどうだろうが演技がどうだろうが「事実」の上には全てが霞む< 全く同感です!小説よりも驚くべき奇跡って 実は(たくさん)存在してると思っているので、その事が本当に素敵で、人生って面白いなと思います。フォローありがとうございます❗私もフォローさせていただきます。よろしくお願い致します。
私は長野県民ですが、中央道沿いに住んでいるので、私は長野オリンピックはTV観戦のみでした。スノーレッツ❗懐かしい。缶バッジ買ったんですが…今何処に…😅でも、白馬のジャンプ台には翌年の夏に見に行きました。上まで登れたのですが、怖くてすぐ(笑)途中から降りてしまいました。😱 本当にジャンプ選手って凄いです!
51さん
コメントありがとうございます^ ^
「事実の部分」に強く感銘受けたので、一体どこからどこまでが「事実」で、どこが「創作」なのか?と思いまして。
休日潰して、長野ジャンプ調査に時間を費やしてしまいましたw
しかし、花形選手達の情報はいくらもあれど、テストジャンパーさん達については本当にごく僅かですね。
51さんの仰る通り、本当にこの映画を作って下さった方々に感謝です。^ ^
知り得なかったこと、書いてくれてありがとうございます。
〇小坂菜緒が演じた小林選手、事実だったんですね。
(映画内で小坂菜緒が演じた小林はやはり当時17歳だった葛西 賀子選手の事だ。)
〇一番先に飛んだのは高校生。
(最初に飛んだ勇気ある少年は、映画の南川ではなく、まだ高校生の梅崎慶太くんだった。凄まじいプレッシャーだったろうに梅崎選手は完璧な着地を決める。)
〇高橋でしたっけあの選手が実名で出ていたとか。
(聴覚障害のある高橋竜二選手は実名のまま役名になっている。)
〇「再開の条件」は、もう一つあり、それは「西方が、大会選手並みの大ジャンプをする事」だったそうなのだ。
西方本人が知らないのだから、もしも失敗回避を優先して無難に済ませようとしていたら、大会続行は無かった!
そして、西方選手はなんとK点超えの123mという大ジャンプを見せてくれたのだった。
※ ※ ※
なんでこれらの事実が埋もれたまま今まで眠っていたのだろう。
表舞台のヒーローに当たった光が強すぎたからか。
この映画を作ってくれた製作者に感謝します。
上に書いたことを教えてくれたpipiさんにも。
今晩は。
ー(以下、映画内に描かれていない事実)ー
を拝読し、驚嘆しました。恥ずかしながら、全く知らず・・。
この事実を、この映画に上手く盛り込んでいたら、今作は、”秀作”から”傑作”になるのではないですか。
イヤハヤ、凄い知識に感服です。
私の好きな現役スポーツライターに、藤島大と言う方がいらっしゃるのですが、お二人で組んで埋もれたスポーツ秘話を書かれたら、”P・・X”で、一本作れるなあ、と思ってしましたよ。
素直に、敬服いたします。又、素晴らしいレビューを拝読する僥倖感にも浸れました。有難うございます。(参ったなあ・・、私、マダマダダナア・・。)
pipiさん はじめまして。
共感をありがとうございますm(__)m pipiさんのレビュー とても勉強になりました!確かにジャンプの規定が コロコロ変わっていたのは知ってましたが、それによる身体への負担は大変なものだったんですね。
また、当日の観客の模様など、…皆さん素晴らしいですね。
まさに 奇跡ですね! ありえないような奇跡だったのに 当時のマスコミは伝えなかった。本当に この映画で彼らの思いや、成し遂げた奇跡が 表されたのは 本当に良かったですね!