劇場公開日 2021年6月18日

  • 予告編を見る

「わかりやすさの中にある謎」ヒノマルソウル 舞台裏の英雄たち ぽったさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0わかりやすさの中にある謎

2021年6月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

コロナで公開が延期されたが、東京オリンピックも延期されたので開催前の公開に間に合った、ということになろう。

タイトルのセンスが古くさく全体奉仕的で、あまり見たいと思わせるものではなかったが、一応長野県人だし、妻がどうしても見たいと言うので、つきあって行ったら予想外に面白かった。こんなところにドラマが隠されていたのかと驚きつつ、「感動の物語」を見て泣きたいと言う人におすすめだ。
テストジャンパー全員が上手く飛べなかったら試合は再開されないとか、原田が二度同じ失敗をするとか、事実でなければ話を盛り上げるためのご都合主義と切り捨てられてしまうところだ。こういう点で「事実に基づく物語」というふれ込みは強さを発揮する。

物語の構造はわかりやすいし、映画としてもわかりやすく加工されている。
怖いので手が震えていますとか、怒って帰ったかと思ったら残っていたとか、辞めると言ったけどやっぱりやるとか、大勢の観客の中のわかりやすい場所に家族がいるとか、とてもわかりやすくしてある。見ていてどういうことなんだろうと考える負荷はゼロだ。
女性の役割は、夫に好きなことをさせて自分は影で支える妻というジェンダー学的に批判されそうな配置なのに、その役を本来ならジャンパー役をやりそうな土屋太鳳にやらせて、その違和感を田舎の因習に抑圧されている女性の在り方の描写に用いたり(深読み)する一方、小樽から飛び出してきてテストジャンパーをやっている女子高生とそれを無理矢理連れ返そうとする無理解な父親との葛藤と和解というステレオタイプもあって、古くさい物語パターンがわかりやすさに奉仕している。ただ、紅一点のこの女子高生がやたらでしゃばってくるのは今の時代を意識しているのか。聾のジャンパーもいてそれが予想外に重要な配役で、そこら辺も時代的な配慮がなされている。
中西の物語のレイヤーだけなら失意からの立ち直りといい、妻や子の配置といい凡庸だが、中西から見た原田というレイヤーが重なることで、原田という天然なのか韜晦的なのかわからぬ不思議な人物が空虚な中心として観客の興味を引きつける。先程「考える負荷はゼロだ」と書いたが、原田という人物の謎だけは残されている。

スキージャンプという、動きの変化の小さいしかも瞬時に終わる競技をいかにスリリングに見せるかに苦労している。苦労しているというのは、その観点からは成功しているようには見えないということである。中途半端である。
ハリウッド映画なら映像がもっと派手で大袈裟なものになっただろうけど(例えば、滑走するスキー板と雪面のソリッドな感じとか、吹雪のディザスター感とか、ジャンプ台を中心としたスペクタクル感とか、選手どうしの人間関係にもっと軋轢を加えるとか)、邦画だし海外興業は考えにくい内容なので、しっかり国内で受けるような物語にしてあり、そういうものとして楽しめる。

テストジャンパーのメンバーが自己紹介をしたとき、丸顔でブサイクな男がおり、何か活躍する場面があるかと思わせぶりだったが、なかったのが残念。

コメントする
ぽった