「社会派作品…と思わせて、振り切ったエンタメ」老後の資金がありません! サブレさんの映画レビュー(感想・評価)
社会派作品…と思わせて、振り切ったエンタメ
老後の資金は4000万円必要!というショッキングな導入で始まり、できるだけお金を貯めようと奮闘する有様を描いたコメディ作品。はじめの方こそ社会問題を笑いで切るかと感心していたが、話が進むにつれてコメディに支配されていったので、社会派作品にカウントすべきではないだろう。
良かったところはなんと言ってもコメディ部分。キリッとした天海祐希にぼんやりした松重豊が作る、“いかにも”な雰囲気を持つ夫婦が良い。この“いかにも”な雰囲気は夫婦以外からも漂ってきており、その雰囲気の中で醸造されるちょっとしたズレに笑い、また、全体を“いかにも”な、言い換えれば普通な雰囲気が包んでいるからこそ、大きなトラブルにも大いに笑わせてもらった。
大きなトラブルといえば、老後の資金への対策として「なにがあるかわからない」とよく言われるが、まさにその通りだ、と。それでいて、「こんなのありえない」ではなく「ありえそう」と思わせるものになっていたのは、“いかにも”な雰囲気の賜物だと思う。
残念だったのは…オチを作るにあたっての展開づくりにちょっとムリがあったところかな。義母と仲良くなってから、すぐに仲違いするのは…あり得るのだろうけど雰囲気にはそぐわないというか。話し合える間柄になったんじゃないの?と首を傾げてしまった。
あと、社会派作品として読むにはあまりにオチがエグい。車と持ち家を売ってシェアハウスで楽しく暮らしてます!という人は確かに現実にいるだろうが、清貧を選ぶことで解決を図るのは…なんとも夢もなにもない話ではないか。
金がないからシェアハウス!というのは、若者のやり方なのだ。特に芸人。本作に大勢出ていたが…彼らに思うところはあったのだろうか。