「砂漠の大都会N.Y.」21ブリッジ pipiさんの映画レビュー(感想・評価)
砂漠の大都会N.Y.
哀しい話だった・・・。
タイトルから「ケーニヒスベルクの7つの橋」みたいな知的謎解きネタかな?と勝手に予測していたが、まったくの見当違いであった。
タイトルや派手なマンハッタン大封鎖は前半の間、観客の目を最後のドンデン返しから逸らす役目もあるのだろうか。
使い古されたありがちな展開だと思うなかれ。それを逆手に取った演出だと理解した。
伏線の散りばめ方も結構職人芸だと思う。あからさまでもなく、しかし決して難解でもない。この手の作品を見慣れた人ならば「黒幕」や「組織」の正体に途中で気付くよう、意図的にそうしているのだと感じる。
つまり観客と同時に聡明な2人、アンドレ刑事とマイケルも徐々に真相に気付き、次第に確信を得ていくのだ。
しかしアンドレは観客のように高みの見物とはいかない。真相に迫れば迫るほど、いつ仲間達の銃が自分に向かって火を吹くかわからないのだから。
信頼する上司やパートナーに背中を撃たれるかもしれない緊迫感が次第に高まっていく・・・
マイケルがアンドレに心を開くのも、アンドレが自分同様に「気付いて」いるとわかった事が理由の一つだろう。
そして、おそらく本作の主眼はそのような「ミステリー構成」の部分にあるのではない。
大切なメッセージは「黒幕」の口から告げられる。
決して「金そのもの」が目的ではないのだと。
「彼ら」の多くは金が無ければ、満足に「生きていく事」がままならないのだ。
そしてそれは皮肉にも、「彼ら」やその家族が命懸けで「この街」を守ってきたが故なのだ。
末期の台詞に重要なメッセージというのは、中盤退場のレイもそうだ。
「マイケルなら何にでもなれた。この街に生まれてさえいなければ・・・」と。
ホテルで、UCLA出身のボンボンと思われる宿泊客の服を身につけたマイケルは「もし、ビバリーヒルズ辺りにでも生まれていたならば」という仮定の姿でもあるだろう。
昔、東京砂漠という歌があったが、それより深い闇を抱え込む、魔都ニューヨークであることよ・・・。
殉職警察官、4時間の渋滞が日常の長時間通勤、物価や土地の高騰、経済格差、ブラック・ライヴズ・マター・・・。
根深い社会派メッセージこそがこの映画の本質だと感じた。
「理由がなければ発砲しない」と断言するアンドレ。警察官になってから9年間で8人に発砲したからと、まるで「行き過ぎた正義」の体現者のように揶揄されるアンドレだが、実際はどうだ?レイとマイケルの違いを見抜き、徹頭徹尾「撃つな!」と叫び続けたのはアンドレただ1人ではないか。
高潔な魂、怜悧な知性。チャドウィック・ボーズマンは非常に抑えた演技の中に、深い哀しみも、強い怒りも、温かみや優しさも、すべて表現してくれた。
アンドレ・デイビス刑事にこれほど魅力的な命を吹き込んでくれたボーズマン。
彼もまた「目だけでの演技」が際立つ俳優の1人であった。
願わくば「アンドレ刑事シリーズ」を今後も見続けていきたかったと切に思う。
御霊の安らかならんことを心より祈るばかりである。