「グザヴィエ・ドランの死と生」ジョン・F・ドノヴァンの死と生 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
グザヴィエ・ドランの死と生
ルパートとジョン、二人の主人公はそれぞれがそれぞれの過去と未来だ。つまり同一人物のように見ることができる。
ジョンは作品冒頭で薬物の過剰摂取により死亡したことがわかる。ジョンの死の真相は?自分の過去やジョンの過去を語るルパートはジョンと同じ道をたどるのか?
同一人物のように描かれる二人がどこで違って、どこで分かれたのかを楽しむ作品だ。
グザヴィエ・ドラン監督は常に自分の中の一部分を切り取ってそれを誇張し作品にしてきた。今作ももちろんそうであろうと推測できる。
ドラン監督の中から生まれたジョンとルパート、その差は僅かかもしれないが、それぞれがしっかりと一人の人間として独立していく流れは秀逸だ。
そこからわかるのは大元であるドラン監督ともまた違うだろうということだ。
ドラン監督は同性愛者なので彼の作品は同性愛を扱ったものと認識されていると思う。確かにそれは間違いではないけれど、自分が思うにはドラン作品の中心は死と生だと思う。
ラストで希望があるような終わり方が多いドラン作品だが、少し残る暗い影やそこに至る過程をみていると、ドランは近々死ぬのではないかと毎作感じてしまう。しかし現在、彼は死んでおらず作品を作り続けている。
死んだ者、これから死ぬ者、それらの対比として残された者の未来と希望をドラン監督は描いていると思う。
これらから本作「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」はドラン監督の本質に一番近い作品なのではないかと思うのだ。
確かに過去作品と比べて内容そのものは薄いかもしれない。しかし映画監督としてドランが培ってきたテクニックが本作一本で過去作を内包するほどの厚みを可能にし、ドランから生まれたルパートとジョンの枝分かれした三つの人生の対比の中で、グザヴィエ・ドラン本人に一番明るい未来を感じる。
ドランは死ぬ気なのか?と感じなかっただけでも本作が良作だったでいいのではないか?
それはもしかしたら自分の知らないどこかでドラン監督が宝物を手にしたからかもしれない。
グザヴィエ・ドランという人間が一番色濃く出ているかもしれない本作が、その宝物だったらいいなと思わずにはいられない。