劇場公開日 2020年9月11日

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「ドンパチが好きならお薦めだけど、ミリオタ的には△。大甘で5段階の3点」ミッドウェイ ヤスリンさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0ドンパチが好きならお薦めだけど、ミリオタ的には△。大甘で5段階の3点

2020年9月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 「インディペンデンス・デイ」シリーズのエメリッヒ監督が、太平洋戦争の重大な分岐点となったミッドウェー海戦を史実に則って描く超大作ということで、ミリオタとして期待半分心配半分で見に行きました。

 初戦の真珠湾攻撃から珊瑚海海戦、そしてミッドウェー海戦に至る約半年を、主にアメリカ側からの視点で描く物語で、両国の艦隊首脳とアメリカ側のパイロット達を描く群像劇となっています。脚本もこれまでのアメリカが描く日本のトンデモ戦争映画(作戦会議を戦国時代のような陣幕で行うとか)ではなく、かなり正確に時系列に沿って描かれていて好感が持てました。戦闘の迫力も凄くて、ドンパチが大好きな映画ファンなら満足できる内容と言って良いでしょう。

 しかし、頑張っているけれど海軍マニアから見るともう一つ詰めが甘いのです。この映画を作るために20年資料を集めたとのことですが、本当なのか?それにしては日本側の描写がかなり甘いというか。

 例えば、冒頭で1937年に主人公の一人である情報将校のレイトンが日本で山本五十六に会うのですが、山本の階級が既に大将になっているのが間違い。山本五十六が大将に進級するのは昭和15年、すなわち1940年です。のっけから間違っていて、「おいおい」と心の中で突っ込んでしまいました。この時山本は海軍次官で階級は中将です。他にもミッドウェー海戦の際の源田実航空参謀が大佐になってました。この時源田はまだ中佐です。

 それから、冒頭の真珠湾攻撃の際に沢山の零戦が機銃掃射をするのですが、増槽(落下式燃料タンク)を付けたままなのです。被弾炎上を防ぐために戦闘前に切り離して捨てるのが鉄則なのに…。映画の日本軍のパイロットはみんな死にたいのかな?(苦笑)

 また、多くの人が指摘しているのがトヨエツ・國村・浅野以外の日本将兵が片言の日本語な事。これは昔から言われていることなんですが、何でアフレコでちゃんとした日本語を吹き替えないのか?こんなこと、お金なんてそれほどかからんでしょうが。単なるやる気の問題だと思うのです。

 日本海軍の艦艇では、空母が全部左艦橋になってるのがおかしい。確かにミッドウェー海戦で活躍した飛龍や赤城は艦橋が左側にあるけど、加賀と蒼龍は通常の右側艦橋です。こんなの、ネットでリサーチしても簡単に分かることなのに…。

 日本側の描写で変なのが、九七艦攻や九九艦爆が魚雷や爆弾を搭載せずに丸腰で飛んでいること。攻撃前なのに、どうやってこれから敵に魚雷や爆弾を当てるのかな?アメリカ側のSBDドーントレスやTBFデバステーターがしっかり爆弾や魚雷を搭載しているので、日本側を描くのに手を抜いているのだろうなと観ていて分かってしまいました。

 一番駄目なのが、空襲を受けている日本側の機動部隊が全く回避運動をしていないことです。本来空襲を受けたら艦隊は敵の攻撃を避けるためにくるくるとミズスマシのように弧を描く回避運動をするのですが(これを駆逐艦乗りは盆踊りと呼びました)、映画では微動だにせず列を作ってただまっすぐ進むばかり。ミッドウェー海戦は多くの写真が残っていて、日本側の赤城の回避運動の写真も残っているのに、ちゃんと見て再現したのかなと疑問に思ってしまいます。

 人によってはそこまで細かく突っ込まなくてもいいじゃんと言うかもしれません。その昔、「トラ・トラ・トラ!」では赤城の艦橋が右側だったし…。でもあれは空母CVS-10ヨークタウンを赤城に見立てて使うための苦肉の策だったわけで、現代のCGなら簡単に再現できることです。CGのすごいところは、これまで不可能だった映像を全て叶えてしまうこと、ならばその当時の映像を完璧に再現することこそが一番大事なのではないでしょうか。その意味で、日本側の描写が甘々なこの作品は私的には高い点数を付けることは出来ません。

 脚本的には、アメリカ側のパイロットを描くのなら、同じように日本側のパイロットも描いて欲しかったですね。ベストやディキンソンに相対するのは飛龍飛行隊長の友永丈市大尉です。彼の獅子奮迅の戦いも描いてくれれば日米双方のミッドウェー海戦映画と言えたのですが。

 まあ、ディープなミリオタじゃなければそれほど気にならないと思いますので、大甘で星三つ付けておきます。僕はこれから「トラ・トラ・トラ!」のBDを見て口直しをしようと思います。あと、録画した「坂の上の雲」も見よう、うん。(苦笑)

ヤスリン