劇場公開日 2020年9月11日

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「「ミッドウェイ海戦」を全力で再現したのではなく、エメリッヒしかできない戦争映画を全力で作り上げた大作」ミッドウェイ yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「ミッドウェイ海戦」を全力で再現したのではなく、エメリッヒしかできない戦争映画を全力で作り上げた大作

2020年9月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

派手な見せ場を作ることには名人芸のエメリッヒだけど、それだけに史実の大海戦と人間模様を描ききることができるのか、期待七割不安三割で鑑賞。

ミッドウェイ海戦の経過、兵器の種類について、エメリッヒはかなりの研究をしていたようで、専門家からもその再現度の高さを評価の声が上がっていました。また基本的に主要登場人物は全て実在の人物で、真珠湾攻撃を防ぎきれなかった情報将校(エドウィン・レントン)が、ミッドウェイで雪辱を果たすなど、ドラマならできすぎな展開も、ほぼ全て実際の出来事だということです(ジョン・フォード監督も登場している!)

ただやはり、映画ならではの演出がなくて何で映画を作る必要があるんだ!といわんばかりに、盛るべきところはきっちり盛ってくれているところはさすが。例えば海面に激突した爆撃機が即座にまるごと炎上してしまうあたり、ニトログリセリンで塗装しているんかい!と突っ込みそうになってしまうけど、どの艦にどの機体がどのように突入してきたのか、などの事実関係は記録通りとのこと。こうした虚実の混ぜ方が実に絶妙で、戦闘場面にはかなりの迫力と説得力を感じました。これは劇場で見ないともったいないでしょう。

日米両軍の将校、兵士を公平な視点で描いた、という評判もありますが、例えば『シン・レッド・ライン』(1998)や『硫黄島からの手紙』(2006)のように、米軍視点でありながら日本兵の内面まで迫ろうとするところまでには至っていないかな、という実感でした。
家族まで登場する米国軍人と異なって、一番出番の多い山本五十六すら、戦略家という側面以外はほぼ描かれていません(ただ、真珠湾攻撃やミッドウェイ海戦時の逸話や有名な言葉を丁寧に拾っているあたりは好印象)。國村隼演じる南雲中将は頑迷で判断力のない、要するにミッドウェイの敗北の責任が全て彼に集中しているような、無能な軍人として描かれています。折角國村隼が演じるんだから、もっと底の知れない人間味を見せないともったいない!

また浅野忠信演じる山口司令官は、闊達な武人という雰囲気を漂わせているものの、実際に彼がどのように活躍し、山本長官や南雲中将とどのような関係にあったのかが十分に描かれているとは言いがたく、やや彼の位置づけが分かりにくくなっています。

要するに日本軍側の軍人の描き方は、あくまでもミッドウェイでの日本軍の敗北を分かりやすく説明するための役の枠を超えるものではなく、人物像としてはかなり単純化されています。ただ、特に山本長官や山口司令官の描写に関しては、もう少し前後があったのでは?と覚しき箇所がいくつかあったので、実際はもっと人物像を掘り下げて描こうとしたところ、上映時間の関係で削ったのかも知れません。いつか完全版が出るのでは。

先述した、山口司令官の位置づけの分かりにくさは、本作が戦況を俯瞰的に捉えて全体像を観客に理解させる、という要素をあまり盛り込んでいないことと無関係ではないようです。確かに作中、作戦会議での兵棋盤を使った演習は登場するのですが、それが意味する内容は軍事の素人にはわかりにくい上、いったん戦端が開かれると個別の戦闘描写の連続となります。そのため肝心のミッドウェイ海戦において、米機動部隊と南雲機動部隊、そして戦艦大和を含む連合艦隊といった主要部隊の位置関係すらはっきりしません。これでは山口司令官の役割が分かりにくくなるのも当然でしょう。

エメリッヒは航空機と艦隊の死闘を、「見栄の応酬」として描くことに十分成功しており、その技術水準は現時点で最高峰に近いと言えるでしょう。ただそこに力を注ぐ余り、戦場を俯瞰的に描く、人物像を掘り下げるという側面が犠牲になった点は否めません。

噂では、エメリッヒ監督はミッドウェイ海戦の前に生じた「珊瑚海海戦」の映画化も企画しているとのこと。こっちなら海上戦にのみこだわっても全然問題なし!本作のクオリティでぜひ観たい!

なお豊川悦司の山本五十六は、最初ちょっと若すぎないかと懸念していましたが、実際に見る彼は非常に貫禄があって、驚きました。さすがに声の若さはありましたが。ただ実は当時の山本五十六と現在の豊川悦司は、ほぼ同い年なんですよね。これが本作一番の驚き!

パンフレットは横長のフォーマットですが、これは明らかに本作の映像を踏まえたもので、作品との一貫性が取れていてとても良いですね。解説も充実しているし、買って損はない、というか安い!

yui