「いいものです。な!」子供はわかってあげない 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
いいものです。な!
本当の父親を知らない少女。父親に会いに行く。
父と娘、甘酸っぱい初恋、少女のひと夏と成長…。
THE青春ストーリー! THE夏!
この夏の空気感が堪らなく心地いい。嗚呼、夏に見とけば良かった…。
王道と言うべき題材や設定だけど、沖田修一監督が手掛けると…
ゆったりとしたテンポとユーモアの沖田ワールドとキラキラ瑞々しくてずっと浸っていたくなる青春世界が最高にマッチング。
まるでKOTEKOに魔法を掛けられたよう。
開幕はアニメ。劇中でヒロインが好きなアニメ『魔法左官少女バッファローKOTEKO』。(←なんちゅータイトルじゃ…)
一流のスタッフ/キャストが手掛け、主題歌も流れ、沖田監督自身が1話分の脚本も書いたというこだわりよう。劇中の架空のアニメなのにしっかりとした作り込みは『麦子さんと』や『ハケンアニメ!』を彷彿。
このアニメを見て涙を流すほどのファン、高校2年生の美波。
学校では水泳部。泳ぐシーンがまた、嗚呼夏の学園…。
両親と弟。ちなみに母は再婚で、義理の父親とは仲良し。同じ『KOTEKO』好き。
開幕を飾るほどの重要キーの『KOTEKO』。ある出会いも。
部活終わり、屋上に見えたのは…?
誰かがKOTEKOを書いている。
居ても立ってもいられず、屋上へ。書いていたのは、書道部の門司くん。
どちらかと言うとマニアックなアニメの『KOTEKO』。今のところ映画化の話もナシ。
まさか同じ学校で同学年でKOTEKO好きに会えるとは…!
言うなれば、『KOTEKO』から全て始まった…。
『KOTEKO』の世に出てないレア回を持っているという門司くん。それを見に、門司くんの家へ。
書道教室でもある門司家。門司くんも子供たち相手に書道先生のバイトを。
そこで意外なものを見つける。いつぞや誰かからウチに送られてきたお札。
門司家は依頼されてその札を書いたという。依頼先は、ある新興教団。
実は美波は、送ってきた相手は知っている。実父。
ふと呟く。探偵でも雇ってみようかな…。
すると門司くんが思わぬ言葉。会えるかもよ。
探偵をやっているという門司の兄。
依頼しに行ってみたのだけれど…
探偵をやってたのはもう随分前。しかも、バイトで猫探しを。
お兄さん…いや、“オネェ”なお兄さん。性転換で今は“女性”に。
泣き上戸でいい人。本職は探偵ではないけれど、門司家との書道繋がりを活かして、何より美波のピュアさに打たれ、引き受ける。
ひと夏かかると思っていた父親探し。
…ところが!
父親は新興教団と関わりあったから…と言うかズバリ、教祖様だった…!
ヤバくない…? 洗脳とか暗殺とかあるかも…? 実の娘だから継承権争いとかも…?
と言っても、教祖だったのは何年も前。今は行方不明。
ところがところが、あっさり今いる場所が判明。
門司くんのお兄さん、名探偵!
種明かし。今、指圧治療院で指圧師をやっており、顔と名前出しでネットに…。
教団とは訳あって失踪中なのに、指圧のホームページには堂々と顔と名前出し。謎の人…。だから元教祖様…?
予想以上のスピード発見で心の準備も出来ていなかったけど、部活の合宿を利用して会いに行く事に。
家族には内緒で…。
父は今、指圧の師匠の離れ家で暮らしている。
出てきたのは、女の子。
娘…?
近所の子。このじんこちゃんが可愛い。
そして対面。父、友充。
お互いの第一声が笑える。
「娘です」「父です」の他人行儀。
ぎこちなさはある。が、よくあるピリピリとした関係や恨んでいるようなそんな感じはない。
そういうのがリアルかもしれないが、ちょっと風変わりでコミカル漂う親子の再会あってもいいじゃないか。
会話のやり取りも笑える。
「好きな食べ物は?」「うどん」「ああ、そう。僕はバナナ」「ああ、そう」。
娘がアニメ好きと知って、「何てアニメが好きなの?」「魔法左官少女バッファローKOTEKO」「知らん」。
絶妙なやり取り。ぎこちなさや微妙な関係が自然と縮まっていく。
親子のように。本当の親子なのだが、つまり、ずっと暮らしていた本当の親子のように。
でもお父さん、年頃の娘の前で海パン一枚はアカンぜよ。
美波は父とじんこちゃんに泳ぎを教える。
父は娘に“見える”を教える。
元教祖の父、人の頭の中が“見える”という。
見え方をミルフィーユに例えるんだけど、何言ってるか分からない。
今はもう能力衰え、それ故教祖をクビになったのだが、胡散臭いような、哀愁漂うような、憎めないような。
会う前はそりゃあ緊張や不安あったけど、いざ会ってみたら…。
スマホが水没して連絡取れなくなってしまい、心配した友達に頼まれて、門司くんもやって来た。
突然現れた男子に、父親ぶる友充。…いや、父親なんだけど。
緊張する門司くん。お父さんだから…もあるけど、教祖で頭の中を読まれる!
この門司くんと友充のやり取りも笑える。
門司くんから娘さんと似ていると言われ、ニンマリ嬉しそうな友充。
酒を飲ませる友充。…って、コラコラ!
娘と父と同級生男子と。時々、近所の女の子やご近所さん。
一緒に過ごしたおかしなおかしな夏の数日もあっという間に終わり、帰る日。
記念写真。
会った時も別れの時も、湿っぽさは無く。
だけど、じんわり込み上がるこの余韻。
見送る父の背中。家に入り、家の中から聞こえてくる娘の好きなアニメの歌…。
『KOTEKO』のアップテンポの歌がまさかこれほど寂しさ表すとは…!
細田佳央太クンの好青年ぶり。イケメンな好青年とかではなく、ちょっと不器用で頼りなさげでコミカルなんだけど、一途な所が。砂浜に好きな子の名前を書いて、THE青春!
オネェなお兄さん、千葉雄大も好演。最後の“請求書”はジ~ンとさせられた。
友達みたいな義父・古舘寛治もいいが、斉藤由貴お母さん。内緒で実父に会いに行ったりしていいの? OK牧場! ユーモラスでいて優しさと愛情たっぷり。
本作では皆、誰が誰を責めたりとかしない。皆、思いやったり、受け入れたり、寛容だったり。
母は内緒で実父に会いに行った娘に。
写真で久々にお互いを見た母と実父。「老けたね~」
娘は実父に。
尊敬出来る父親像とは遠い存在。ちょっとおかしくて、情けなくて、抜けてて、寂しさ漂ったりしてて、でも愛嬌あって、人柄が好きになってしまう。そんなお父さん。トヨエツが絶妙のペーソスとユーモア。
だけど本作のMVPは、言うまでもなく主演の上白石萌歌だろう。
上白石萌音の妹で、姉妹共演もあって、『未来のミライ』の声優ぐらいしかイメージなかったけど、間違いなく彼女の代表作となり、実力と魅力を余す所なく発揮!
フレッシュさ、瑞々しさ。
プールや海で泳ぐ姿、学校の階段を走る姿。
ナイスなリアクション。笑顔。照れる顔。頬を伝う涙。
“ヒロイン”と“夏”と“青春”の完璧な三位一体。
勿論それは、彼女の演技力やキュートさ他ならない。
もう“妹の方”とか“いまいちだった声優”なんて言われる事はない。女優・上白石萌歌!
実父に会いに行く旅を終えて…
美波の青春の夏はまだ終わらない。
合宿に不参加の罰で、プール掃除。
その時、屋上に見えたのは…
思えば、『KOTEKO 』繋がりで、この場所の出会いから始まった。
告白。
近年、こんなにストレートでピュアで初々しくてほっこりさせられる告白シーン、あっただろうか。
いいものです。
沖田修一初のコミックの実写化。
青春モノは手掛けた事あるが、初の爽やか学園青春モノ、初の初恋モノ、初の王道モノ。
それらでありながら、見事自分のカラーにも染めている。
愛さずにはいられない人物たちや作品を描いて、沖田監督に勝るものナシ。
いいものです。
な!
すごいですね。あらすじ紹介を超えて、半分小説に足突っ込んでいるかのようなレビュー。もう一度、映画観た感じです。
おっしゃるように、「夏」と「KOTEKO」が心から離れない本作です。そしてこれもおっしゃる通り、「ハケンアニメ」と双璧な、映画中アニメの作り込みのスゴさ!! それが「KOTEKO」だから、一層の驚きでした。