「もっとドロドロにドロンドロンしてたらグサグサ刺さったのに。」ファーストラヴ bloodtrailさんの映画レビュー(感想・評価)
もっとドロドロにドロンドロンしてたらグサグサ刺さったのに。
アメリカNBCのドラマ「HEROES」に遅まきながらはまっていたのが2010年頃の事。同じころ、日本では「SPEC」です。劇場版「SPEC天」が2012年で堤幸彦監督でした。HEROESに比べると、ちょっとなぁ、でも低予算でこんだけ面白ければ上等だよ。などと。実は、堤幸彦監督と言うと、「20世紀少年」でも「Trick」でも、「ケイゾク」や「くちづけ」などの作品でもなく「Spec」だったんです、俺の中では。最近は「人魚の眠る家」「12人の死にたい子供達」「望み」と、社会性のあるテーマの作品が続いてますが、一貫してるのは「最後はポジティブ」。なので、好きなんですよね。
ドローンの高高度映像から始まるのは最近の堤作品のルーチン。今回は更に高度をあげて空撮も多用。これが社会を鳥観する、俯瞰的に眺める、と言う印象を与えます。いつものように、画は丁寧です。キャストロールを見損なったんですが、特徴からすると相馬大輔さんでしょうか。個展から立ち去ろうとする由紀を我聞が呼び止めるんですが、立ち止まった由紀の半身がドアの太いサッシに隠れている画とか、個人的には物凄く好き。恋人になり切れなった男の兄に呼び止められた由紀の心理を、この画一発で表現です。良いなぁ、って思います。
正直に言うと、北川景子さんが嫌いでした。もうね。役者になっとらんやん!って思ってたんですが、最近、明らかに超進化してると思うんですよね。今回は、声が違いますもん。昔は、常に妙に緊張して声帯収縮してるから、みたいな声しか出てませんでしたけど。使い分け感ありました。途中から、やたら芝居が大げさになる所は、「ハリウッド女優かよ?」って思いましたが、これくらい「熱演感」を出してやってくれた方が、彼女のすました印象を強く与える、整った顔立ちには合ってると思います。
芳根京子、中村倫也、窪塚洋介はいつも通りに御座います。やっぱり、芳根京子ってすげーよなぁ。個人的には、土屋太鳳と芳根京子が、この年代の双璧です。先週みたシンデレラの土屋太鳳も良かったですけど、この役は芳根京子にしか出来ねぇよ、って思わされる。
ロリペドに始まり、親から守ってもらえない子供の問題に帰結する流れ。法廷映画部分が、明らかに物足りなさがあって、途中で盛り上がった気分が、終盤失速してしまいました。芳根京子の「自分を傷つければ逃れられる。許して貰える。だから、そうしました。」との告白場面は胸にズシーンと来ました。
懲役8年なら5年で仮釈放ってところでしょうか。
全てを忘れて人生リセットするには、丁度良い時間かもしれんねぇ。
塀の中は、シェルターでもあり。
むしろ。
ロリペドを重罪にしろよ。
って思うけど。
ドロドロしてる物語の割に、ドロドロさの描写が中途半端で、映画としての満足度はボチボチでした。
ベッドシーンなのにブラウス着たままってのも。事情があるんですね。お察ししますw
映像表現としては、やはり「留置所の強化ガラスを挟んで対話する由紀と環菜」に力が入ってました。
最初。二人を斜めから撮る画から始まります。インタビューする者とされる者の立場の違いと心理的な距離がある事を象徴。
次に、二人の顔を正面にとらえる画が使われ出します。話をする由紀の顔に、環菜の顔が薄く投影されます。由紀が環菜に自己との共通性を見出し始めたことを象徴。投影される環奈の顔の影は、次第に濃くなって行き、最後にはどちらの顔を映しているのかが判別できないほどになります。由紀が環菜に自己を投影しはじめ、自分の過去と向き合っている様な心理になる段階では、ガラスに映る両者の輪郭さえ曖昧になって行きます。そこにあるはずの2人の人格の存在の曖昧さ。蓋をして忘れ去ってしまった記憶が、今の自分を脅かすものであることを象徴している。的な。
この映像表現は、面白かったですし、見ごたえがありました。