劇場公開日 2020年9月25日

「「強く抱きしめることより大切な愛と、ジェンダーが突きつける現実」」ミッドナイトスワン かなさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 「強く抱きしめることより大切な愛と、ジェンダーが突きつける現実」

2025年12月21日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

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 愛情に飢えている子供にとって、いちばん大切なことは「強く抱きしめること」ではないでしょうか。体の温もりや「大切にしているよ」というメッセージは、言葉以上に伝わるものだと思います。

 そして本作には、もう一つの重要な核として「ジェンダー」の問題があります。主人公の凪沙(草彅剛)はトランスジェンダーで、女装をして新宿の夜の街で生きています。LGBTQと一括りにされがちですが、「社会の目」が常につきまとう現実を、内田英治監督は非常にリアルに描き出しています。このジェンダーの問題こそが、本作のすべてを決定づけていると言っても過言ではありません。

 本作は、内田英治監督による秀逸なオリジナル脚本の映画です。トランスジェンダーの凪沙(草彅剛)と、母親から育児放棄された一果(服部樹咲)が、ひょんなことから一緒に暮らすことになります。

 女装をして新宿の街を歩く凪沙は、どことなく人の視線を気にしています。世間から「まっとうな存在」として見られていないことを、彼自身が痛いほど実感しているからです。ただ、自分が男の体を持って生まれてきたことを呪うしかない――。その苦しさと切実な心情を、草彅剛は驚くほど繊細に演じ切っています。まさに見事な演技です。

 転校した一果も、バレエの友人ができ、レッスンに励みながら、徐々に新しい生活に慣れていきます。一果は当初、凪沙を「伯父さん」だと思っていましたが、女装をするトランスジェンダーであると知ります。戸惑ってもおかしくない状況にもかかわらず、一果はそのことを態度に一切表しません。外見や属性で人を判断しない彼女は、ある意味で大人以上に成熟した存在だと言えるでしょう。凪沙と一果は互いに干渉しすぎることなく、それでいて強く結びついた絆を育んでいきます。

 一果のバレエの発表会で、凪沙が見せる心配でたまらない表情が強く印象に残ります。すでにその姿は、一果の母親そのものです。ところが、その想いを覆す出来事が起こってしまいます。一方で、一果はバレエの才能をますます開花させていきます。

 一果の「本当の母親」になりたかった凪沙は、ある決断を下し、それを実行します。つらいエンディングではありますが、旅立つ者には切っても切れない絆と、確かに与えられた愛情が残されます。それらを胸に抱きながら、これからも生きていく――そんな希望の灯が差し込む映画でした。

 子どもの育児放棄、そしてジェンダーの問題。これらの社会的テーマに真っ向から向き合い、観る者の心を大きく揺さぶる、内田英治監督の渾身の一本ではないでしょうか。

かな