劇場公開日 2020年9月25日

「日本では稀有なバレエ映画」ミッドナイトスワン シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0日本では稀有なバレエ映画

2020年11月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

観たい作品が中々なくて、評判が良くかなりロングランで上映されていたので、全く予備知識なしで観に行きました。
冒頭からこれも家族の物語かと思って鑑賞していて、物語自体は結構ありきたりでアザトク作っているなぁと思って観ていたのですが、最後の方のあるシーンになってやっとこのタイトルの意味を理解し納得出来た。
そのバスで海に向かうシーンを観て、私の大好きな『真夜中のカーボーイ』を思い出し、いやいやこれは『真夜中のカーボーイ』の丸々オマージュ作品だったのだと思い、それでこの作品の全体像が見えたので感動が割り増しになりました。
大都会ニューヨークの闇を生き抜くラッツォを、東京の片隅に生きるトランスジェンダーの男(女)に、故郷を捨て都会に夢見るジョーを。育児放棄されたバレエに憧れる少女に、約半世紀前のニューヨークを今の日本に見事に置き換え、今も変わらない社会の底辺に住む孤独な魂の偶然の触れ合いと、人間同士が触れ合う事により起きる不思議な作用(化学反応?)により、沈んだ孤独な魂に少しずつ人間愛が甦るという、心の再生の物語でした。
話法としてはもう古臭いのかも知れないけど、孤独を感じることが出来る人間こそが真の愛も感じられる人間なのだという普遍的な人間の物語だったので、分かりやすいし評判が良いのもよく分かります。

それと、少女役の服部樹咲のバレエが素晴らしかった。こういう作品のキャスティングの場合、長く役者をしている演技の上手い子か、役柄のバレエの上手い子か、どちらを上位に選ぶのか迷うと思いますが、バレエが上手い子を選んだのは大正解だったと思います。この役に達者な演技など不要の様にも感じられ、日本映画が最も苦手とするダンスシーンが本作では実に見事で、どんどん美しくなる少女の描写も本作の大きな魅力だったと思います。
ちなみに主役の友人の少女もとても重要な役で、この子は演技もバレエも上手でしたが、もしこの子と役が逆転していたらと想像すると、やはり今回のキャスティングの見事さに拍手です。

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シューテツ