「凪沙と一果の人生を両面とした切ない物語です。」ミッドナイトスワン 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
凪沙と一果の人生を両面とした切ない物語です。
草彅剛くんがトランスジェンダーに悩む男性を演じる事で話題になってた作品を前から結構気になってて、やっと観賞。
観に行った「TOHOシネマズ 上野」は殆どが女性客でしたw
で、感想はと言うと…草彅くん、凄えなあ。
元SMAPで年齢とキャリアで演技に深みが増していて、役者としても降り幅は広くなってるとは言え、アイドルとしての認知されている存在にここまでやらすか?言うぐらいにブッ込んでいると個人的には思いました。
また、一果役の服部樹咲さんが熱演。中盤ぐらいまでは完全に一果が草彅くん演じる凪沙を食っている感じで、圧倒的な存在感を醸し出しており、凪沙の存在感に全然負けていない。
と言うか、一果の不器用にも荒々しくて鈍く光る存在感か凪沙とのバランスが取れていますが、全体を通して観ると一果の物語で、そこに凪沙の悲哀が醸し出されている。
そう考えると、「ミッドナイトスワン」と言うタイトルはどちらかと言うと凪沙寄りのタイトルなので、些か違和感がある様に感じたりしますが、とにかく二人の熱演しています。
最初に難点を言うと、凪沙の喋り方にちょっと無理している感じが否めなくない。
無理に女言葉に寄せて喋ろうとするのではなく、もう少し砕け感じでの女言葉でも良かったかなと。
あと、凪沙の歩き方も少し意識しすぎかな?
男性は肩で振って歩くのに対し、女性は腰を振って歩くと言うのを聞いた事がありますが、そこに意識をし過ぎてか、凪沙の歩き方が些かディフォルメされている様にも感じます。
でも、そんな細かい事はだんだんと気にならなくなり、観る側にも凪沙の心境がシンクロする形でトランスジェンダーとして悩む凪沙の苦悩の悲哀がこちらにも伝わってくる。
この辺りは演技力に定評のある草彅くんならではで、トランスジェンダーを病気と言い切ってしまうのは些か乱暴かと思いますが、それでもトランスジェンダーに悩む一人の人間が一果との出会いにより、自身の母性に目覚め、悲劇に遭うのは観ている側としても心がキリキリと痛くなります。
でも、故郷に出向き、一果を迎えに行くまでの間で一果がちょっとやさぐれた感じになってた所が少しはしょり過ぎに写ったりしますが、性転換手術をして争いから胸がはだける描写はちょっとやり過ぎかな。
親にしてみれば、息子が突然帰ってきて、性転換手術をしていて、胸には立派な膨らみがあるのを見ると、そりゃあびっくり仰天だろうけど、そこまでの描写が凪沙の覚悟の表れであったとしても、演出的には少し過剰に盛り込み過ぎにも感じるし、そんな凪沙の姿を見て"このバケモノが!"と叫ぶ一果の母親の姿に「田舎でもLGBTに対しての認識なんてそんなもんだ」と言えばそんなもんかもですが、どうもやり過ぎ感を感じます。
悲哀な場面ですが、…なんだかなぁ…と思いますが如何でしょうか。
原作を読んでいないので、細かい部分での解釈が出来ていない所もあるかと思いますが、一果が凪沙と離れて親元に帰り、中学卒業と共に再び凪沙の元に尋ねた時の描写は結構衝撃。
タイで性転換手術を受けた後の後遺症、もしくは衛生面での感染症か手術の失敗かは分かりませんが、身体の自由が効かなくなり、ボランティアの手を借りなければ排泄の処理も出来ない。おまけに目まで不自由になっているとなるともう驚き過ぎて、性転換手術のリスクの闇を見た様な感じです。
東京でニューハーフパブで生活をしているショーダンサーの凪沙の元に母親のネグレクトが原因で一時期的に身を寄せた一果が来た事で物語が始まるが、口数が少なく、人見知りで粗暴な一果に凪沙も手を焼くが、とあるきっかけで一果がバレエに興味も持った事から進展していき、途中、親友となるりんとの交流やかなりグレーな撮影アルバイトでの騒動などが面白い。
一果の才能を開花させる為の金を稼ぐ為の風俗アルバイトをしようとするまでの凪沙の行動に一果への愛情も緩やかに昇華していく感じでこのまま無事に皆が幸せになれれば良いのにと思ってもそうは問屋が卸さないw
怪我でバレエが出来なくなって、自殺を撰んだりん。
タイで性転換手術をして、両親にカミングアウトしながらも一果を引き取ろうとするが、身体に不自由が効かなくなる凪沙。
いろんな事がバッドエンド的に降りかかるが、それらを乗り越えて遠い異国の地でバレエの世界で才能の花を開かせようとする一果。
一果が羽織っているベージュのコートが凪沙の想いを背負っていて、いろんな事を昇華させていきます。
一果の物語として、観応えがありますが、一果の母親の立ち位置がどうも微妙。
水商売でネグレクトとなり一果を手離すが、何の前触れもなく、一果のバレエ発表会に観に来てたり、一果が実家に帰った際も一果への愛情がある様で無い様な感じがどうも解り難く微妙。
一果の母親の彼氏なのか、弟なのかも突然出てきてなんか微妙。
この一果の母親のパートだけが、なんか引っ掛かると言うか、もう少し整理されてても良かったかな?と思ったりします。
りんの母親役に佐藤江梨子さん、一果の母親役に水川あさみさん、ニューハーフパブのママ役に田口トモロヲさん、バレエ教室の先生役に真飛聖さん。パブの同僚役に吉村界人さんとなかなかな陣容。
とにかく草彅くんの熱演とそれに負けない一果役の服部樹咲さんの熱演で何処か不器用で歪にそれでいて、様々な想いと抱えた希望と業に振り回されながらもそれぞれの人生を全うしていく。
一果の人生に幸あれと思いながらも、凪沙の人生に切なさとやるせなさを感じ、心がキリキリします。
でも、観て良かったかと言えば、観て良かった。
それなりに期待しての作品でしたが、キワモノな部分がありながらも、人間ドラマとしての作品に個人的には引っ掛かる作品です。
未観賞の方で興味があれば是非是非。
一果役の服部樹咲さんは今後注目の役者さんかと思いますよ。