「愛と性と命。」ミッドナイトスワン みゆうさんの映画レビュー(感想・評価)
愛と性と命。
この映画を観た一番初めの感想は、自分らしく生きるというのはとても難しく、そしてとても美しいということ。
凪沙もいちかもりんも、様々なしがらみによって本当の自分を出せていなかった。
そんな似たようで全く違う環境の人たちがつながり、それぞれの自分を出していく。そんな映画だと私は思いました。
一番衝撃的だったのはやはり、りんちゃんの自殺シーン。
舞台が屋上だった時点で薄々勘づいてはいましたが、それでも息を飲んでしまうほどの迫力でした。
いちかとりん、お互いが全く違う場所で同じ曲を踊っていくところは何とも幻想的で美しいものでした。りんも笑顔で自由に踊っていて、飛び降りる時も死への恐怖なんか感じさせないぐらい軽やかで。一瞬、一昔前の映画「自殺サークル」に少し似ている部分があるなと感じました。
親に無理やりやらされていただけだったかもしれないバレエは、りんちゃんにとって大好きなもので、かけがいのないもので、いちかと繋いでくれたとても大切なものなんだとわかりました。
次に印象的だったのは凪沙さんといちかの海辺でのシーン。
砂浜で踊るいちかを見る凪沙さんの目は、間違いなく母親そのものでした。
性転換をしても本当の母親にはなれない。それでも凪沙さんはいちかの第二の母親であるんだということがひしひしと伝わってきました。
いちかの本当のお母さんも、ちゃんと母親の顔になっていて、いちかちゃんも明るくなって。
理想的、とまでは行かなくともそこにはちゃんと親子の絆がありました。
少し残念だと思ったのは所々が省略されていること。
時間的に仕方のないことだとはわかっているのですが、それでもいきなり何か月、何年も時間が飛ぶということに違和感を感じました。
そして、省略されてしまったであろう、ショートストーリーを見たいとも思いました。
例えば、りんちゃんがグレるまで、そして自殺するまでの心境や両親との関係、いちかのお母さんがいちかと離れている間の様子や、いちかに再びバレエをさせて凪沙さんに会いに行くことを許可したまでの心境、最後凪沙さんが息絶えた後に海に入っていったいちかちゃんが外国に行くまでのストーリーなど。
細かいところまでやっていったらあと二時間ほどは作れるんじゃないかと思えるぐらい、深い物語でした。