すばらしき世界のレビュー・感想・評価
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真っ青な空を見上げて 誰かのこと思ってますか?
公開時期的に否が応でも「ヤクザと家族 The family」と比較せざるを得ないんですけど、どちらも素晴らしい作品です。
ヤクザと家族は文字通りヤクザの世界、ヤクザの視点から社会を描き、年月の経過により居場所がいなくなっていくという話なんですが、今作はどちらかというと社会の側から、元殺人者、元反社と関わりのある人間を受け入れることができるのか、その不寛容さによりスポットライトをあてているなと思いました。
西川美和監督の作品は、「ディアドクター」「夢売るふたり」「永い言い訳」は見ています。印象としては、象徴するものをあえてカメラに写すことで作品全体の奥行きを増やす、分かりやすい結末にしないところが非常に良いなと思っています。『居場所探し』『真の意味での幸福追求』というのも作家性としてあると思います。
今回もその作家性が炸裂していました。たとえば、冒頭の服役を終えて出所するシーンの扉が最後まで閉まるのをあえて映さない、看守のバス停への送迎の際、バスに乗り込んだ主人公から看守が見えなくなるまではあえて映さない、そのぶつ切り感が、開かれているようで開かれていない、明瞭なようで希望があるようで遮断されることを暗に示しているように思いました。
東京タワーとスカイツリーの対比も面白かったです。主人公が過去の思い出がある場所に向かおうとするときには東京タワーを映し、未来へ向かおうとする時はスカイツリーを映していました。スカイツリーは服役中、つまり外界から離れていたときに完成したもので、用いたのではないかと思います。
空の移し方も良かったです。ネタバレにならない程度にしますが、主人公が社会に適合しようとするとき、円環のような雲が映るんです。主人公の未来が明るいように見えて実はまだ闇が迫っていることを示すようにも見えるし、主人公を受け入れてくれる人の周りにはそうはさせてくれない厚い層があると示しているようにも見えました。
そして嵐が起こり、主人公は愛想笑いという成長を見せたとも言えるし、でもその前の行動は成長してないようにも映った後のラストシーン。そう終わらせてしまうのかというのはやや不満でしたが、ラストカット真っ青な空にタイトルバック。果たしてこの世界はすばらしき世界なのか…と余韻を残す素敵な演出でした。
何をもってすばらしき世界なのか問題なんですけど。割と自分は性悪説論者で、生まれつき誰しもが誰かを意識的に傷つけたい欲を持っていると思っています。蚊を殺したときのスッキリした気持ち、スクールカースト、マウンティング…などなど。
今作では生育環境も影響するのではないかという示唆、更生するのは非常に難しい(難しくさせてるのは社会)という示唆がなされています。自分は子どもと関わる仕事をしているので、生育環境が影響しているというのは真っ向からの否定はできません。それでも、救いたいと願う人たち、施設の取り組みがあるわけですが、拾いきれない子どもがいるのも事実です。更生というのもかなり難しいと思っています。自分自身が何歳をきっかけに性格がまるっきり変わったという経験をした覚えがないからです。
でも、この映画を見て、だからといってその全てを切り捨ててしまっていいのかというのは改めて思い知らされました。ネタバレを避けるためにぼやかしますが、主人公にコスモスをプレゼントした同業の男性がいて。周りの同業の人たちはとあることをきっかけに彼を影でバカにするシーンがあって、非常に辛いところなんですけども。主人公は彼に自分を重ねたんだろうと思います。本当なら今までのように暴力を振るって分からせてやりたい、でも社会に適合するためには愛想笑いするしかない…というのが辛くて辛くて。このあと主人公はどんな想いでコスモスの香りを感じたのか、ほろ苦い余韻が残ります。
とはいえ、ラスト主人公をそうして終わらせるのか…というのはちょっと残念。あと、長澤まさみが演じるキャラクターがややノイズというか、元殺人者をどういう立ち位置で見ていたのかが結局周りと変わらないんだったらうるさいだけだなーと思いました。面白がるんだったら最後まで面白がれよと思いました。あと、役所広司さんの熱演は素晴らしいのですが、ややセリフが聞き取りにくいところがあったのも残念でした。
とはいえ、西川美和監督の作家性を楽しむ映画としても、ヤクザと家族の別の視点から考える映画としても非常に良くできた一本だと思いました。
期待しすぎた
冒頭、出所した主人公が真っ当に生きようとする決意を、「今度こそカタギになるぞ」と台詞で言うところで一抹の不安を覚えたが、西川美和監督にしては終始説明過多、過剰演出に感じた。
特に主人公の周囲に配置された人々の人物描写には不満が残る。
仲野太賀はいつの間にか無償の良き人になっているし、最悪な登場をした六角さんは気が付けば聖人のごとく振る舞っているし、この映画の脇役たちの多くは行動動機がよく分からないので、単に主人公の心情を煽ったり物語を進行させるためだけに親切と不親切を加減しているかのように見えてしまう。
らしからぬ陳腐な場面演出も目につき、この映画が見せたい「世界」というものがどうにも実在感が無いため、最終的に主人公が見せる「生き方」についても共感しづらく、折り合いをつけるってそういうことかなあ?と思ってしまった。この映画の世界においてはそうなるだろうが納得感が無い。
このテーマでこの監督ならもっと良い映画になったんじゃないかと思わざるを得ない残念な一作。
同じ題材を扱っている「ヤクザと家族」の方が面白かったです。
もうひとつの「ヤクザと家族」
30年前に読んだ佐木隆三の「身分帳」、まさか今ごろ映画化されるとは思いませんでした。実在の殺人犯、田村義明を描いた小説でしたが、この作品を掘り起こし、映像という形で我々に投げかけた西川美和の視点にひとまず拍手。
主人公は芸者の母と海軍大佐の間に生まれた私生児。父親に認知されなかったため戸籍を持てず孤児院に。そこで非行を繰り返し暴力団員となり殺人を犯し服役します。
西川美和はこの映画で時代背景を令和に置き換え、彼が出所してからを鮮烈な人間ドキュメントとして描いています。
先日公開された「ヤクザと家族」にも繋がるような、一度失敗を犯した人間の生き辛さが描かれており、「すばらしき世界」という題名がなんとも皮肉に感じられましたが、スクリーンの役所広司にぐいぐい引き込まれるにつけ、もしかしたら主人公の内的世界は、ある意味、本当にすばらしき世界だったのかもしれないと想像しました。やはり“シャバの空は広かった”のでしょう。
役所広司の、まるで演技を越えて人間力がほとばしるような表情。加えて、仲野太賀を筆頭としたすべての脇役陣の突き抜けた演技。そして繰り返しますが西川美和の豪腕に脱帽です。
大満足の126分。映画というすばらしき世界に浸ることができました。ありがとう。
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