「誰も間違ったことを言っていない」すばらしき世界 しろくまさんの映画レビュー(感想・評価)
誰も間違ったことを言っていない
本作の登場人物は、誰一人、間違ったことを言っていない。
刑務所を出所した三上(役所広司)を、テレビのネタにしようとしていたプロデューサー(長澤まさみ)。ケンカを始めた三上を撮れ、とだけ言うなら、嫌なヤツだが、カメラを持つ津乃田(仲野太賀)に「撮らないなら、カメラを捨ててケンカを止めろ」と言う。
三上の勤める介護施設の若者たちの「言い分」も、間違いとは言いがたい。
これが「すばらしき世界」だ、と本作は言う。
かつて罪を犯した三上の言うことだって間違っていない。
夜中に騒いではいけないし、困っている人を見捨ててはいけない。
だから、かつて自分を守ってくれた三上を、当時の妻(安田成美)は、いまも感謝している。
親を知らない三上は、子どものままの心を持っているようですらある。
間違ってはいないかも知れないが、「何が正しいか」については本作は断言しない。
ラスト、同僚のイジメを止めていたら、三上は体調を崩すことはなく、死ぬことはなかったろう。
だが、あそこで手を出していたら三上は破滅していたはずである。
この「すばらしき世界」では、いろんなことに折り合いをつけながら生きることが「正しい」のか?
それで死んでしまっては元も子もないのではないか?
そんな問いが観るものに投げかけられる。
かつて、三上と義兄弟の契りを交わしたヤクザの妻(キムラ緑子)は、三上に「シャバは我慢の連続。でも、空は広い」と言った。
三上が亡くなった翌日は、台風一過の晴れ渡った空が広がっていた。