「地味だけど、味のある作品」すばらしき世界 キッスィさんの映画レビュー(感想・評価)
地味だけど、味のある作品
殺人→13年の刑期を終えて出所→その後社会にどう馴染んでいくかをテーマにした作品。
元ヤクザだけにいい意味だと曲がったことは許せないし、気に入らないとケンカ張りに対応してしまい後悔することもありながら、元受刑者への世間の冷たさを痛感していく。
そこに興味半分で近づいてきたTV製作者がさらに怒りを買うような対応をしていく。
ヤクザに戻ってしまうのか、なんとか周りの応援によって社会復帰できるのか、という地味な内容とも言えるが、これはセリフの微妙な心境の変化を見ていく、感じていく作品である。
・13年も刑務所にいて刑務所での規律・ヤクザの喧嘩っ早い様子
・公衆電話しか連絡方法がないし、就活しても出所者には冷たい現実を知る様子
・スーパーや老人ホームで理不尽な状況に出くわしてもグッと呑み込んで不器用な笑いでやり過ごす
・スーパー店長がだんだん真っすぐな正夫に魅かれていく
・フリーのディレクターが商業ベースで行方不明の母親を探し、更生していく様子を撮っていこうとするも、次第に正夫の真っすぐな人間性に魅かれ、小説家として人間としての正夫を題材にして書こうと決意し、人間同士の心の通った交流をしていく
・役所の生活保護の課の人が適当にあしらっていたのが熱心に質問しに来たりそれと同じ熱量で資格取得しようとする姿に親身になっていく
ざっと挙げたが、それぞれの登場人物の発していく言葉のちょっとした変化や語尾で、心境の変化を読み取っていく作品で、地味だと思われるがとても奥が深い。説明臭くなく、説明を会話や表情で読み取っていくのは疲れる作業でもあるが、その疲れが涙となって洗い落としてくれる。
ラストのシーンが何よりも正夫に関わった人たちの本心があらわれている。