「生々しい描写にイラッと来ますが、日常的に自分の周りにも起こり得る事の怖さを認識させられます。」許された子どもたち 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
生々しい描写にイラッと来ますが、日常的に自分の周りにも起こり得る事の怖さを認識させられます。
前評判からなかなかな重い問題作と噂を聞いて、いろいろと気にはなりながらも凹むのも嫌だしとか思いましたが、やっぱり観ない事には始まらないので観賞しました。
で、感想はと言うと、…重い。やっぱり重い。
個人的には見応えがありましたが、かなりリアルに取り扱っていて、結構な問題作。
でも、いろんな意味で問題定義を投げ掛けてきて、観る側を確実に選ぶ作品ですね。
昨年観賞した「岬の兄妹」並みの衝撃です。
虐めから同級生を殺害してしまい、一旦は罪を認めたが殺害を否定し、無罪となった13歳の少年と家族のそれからを描いていますが、もうこれが"これでもか!これでもか!"と世間の叩きが起こってくる。
2015年に起こった「川崎中1男子殺害事件」をベースにしているのか、かなり類似点も多く、また
「大津市中2いじめ自殺事件」も参考にしているかと思われる所もありますが、この手の陰湿な虐めの事件は正直多々ありすぎて、どれも似ている事や気がつけば日常的に起こっていると思うぐらいに在りすぎて、考えれば考える程ゲンナリしてきます。
また、ネットで過剰に加害者を叩く者も実在の人物をモデルにしていると言うか、そのまんま過ぎて、ちょっと笑えない所まで来ている感じで、リアリティを求め過ぎたきらいは正直あります。
だからこそ、この作品が過剰にリアルすぎるんですよね。
虐めの首謀者の少年、絆星(きら)と言うのも「DEATH NOTE」から引用しているのか、中二病的なキラキラネームっぽいが、他の加害者の三人もなかなかなキラキラネームw
キラキラネーム = DQNではないけど、そんなイメージを連想させます。
絆星と家族に対する世間の非難と私刑は何処か「しょうがないよね」と思う所があったにしてもかなり悲惨。因果応報と言う言葉だけでは片付けられない感じです。
この辺りは名作「時計じかけのオレンジ」で出所後のアレックスに対する壮絶な虐めや仕打ちと良く似ているし、聾唖の少女を虐めていた男の子が一転して加害者から被害者に変わる、これまた名作アニメの「聲の形」とよく似てますが、現代風にネットを通しての叩きが生々しい。
絆星と母親の開き直りとも取れる行動と辟易しますが、母親の行動がまたそれに拍車をかけている。
母親の気持ちを俯瞰で見ると分からなくもない所もあって、「子供の為なら鬼でも夜叉にでもなる母親の気持ち」を体現している訳ですが、罪を認めない事と証拠を隠蔽した事。それがまた絆星を苦しめていきます。
子を思う母親の気持ちは分からなくはないけど、罪を認めて前に進ませないのは自分が男だからか、どうにも理解がし難いです。
気分転換に行くカラオケもなんかムカつくんですよねw
また、言われなき誹謗からクラスで虐めを受けている桃子との交流も絆星を苦しめていき、また事件と向き合う様になっていきます。
引っ越した事と素性を明かないが、ある時身元がバレて、クラスメートが必要以上の叩きを始めるのは生々しくイラッときます。
加害者の絆星がいつの間にか叩かれる側になり、自身の行いを正義の鉄槌とばかりにクラスメートが憎々しく見える逆転現象は目新しくはなくても、不思議な感覚になります。
絆星役の上村侑くんはかなり上手い。特に目力が凄くて、ふてぶてしくも脆く危ない役を見事に演じてます。
目力が強いと言うと個人的に柳楽優弥さんを思い出しますが、そう言えば柳楽優弥さんのデビュー作の「誰も知らない」の時と被る感じですね。
この作品に個人的に思ったのは今のネット社会における過剰なバッシングで誰でも被害者にも加害者にもなるかもしれない、ギリギリのフチを歩いている事。
「悪意なき悪意」「正義を笠に着た過剰なバッシング」は観ていてもかなりイラッときますが、いつ自分がそうなるか分からないし、そうなってるかも知れない。
劇中のホームルームでイジメについての議論なんかは、様々な意見をディスカッションする事自体は良いとしても、力のある者が"虐められる方にも問題がある"と発言すると後は数の理論でイジメを容認する様に他の者を先導する。
一見無意味に思える議論でも実際にそんなディスカッションが学校で行われている事がなんか怖いんですよね。
一転して、加害者である絆星が被害者となり、過剰な自称正義のバッシングは観ていてもかなり胸クソになりますが、暴力が暴力を産む構図はいつの時代でも変わらない事を認識させられ、また誰もが正義の裁きをくだす事の無自覚に怖くなります。
この作品で個人的に良かったのは、事件と向き合うがだからと言って簡単に反省はしないと言う所。
正直13歳にもなろうとする少年少女は大人が考えるよりも子供ではないし、馬鹿でもない。かと言って大人でもない。
だからと言って、大人の杓子定規に当て嵌めてる事も出来ないが、これだけの情報がスマホやパソコンで簡単に手に入る様になれば、決して思っている程の単純ではないが、壊れやすい純粋さを持っていて、難しいんですよね。
タイトルにある「許された子供たち」と言うのは、ある意味かなりの皮肉で、許されたと謳う事で逆に貶めている。
事件を起こした加害者を肯定する事は出来ないが、かと言って、加害者を過剰に叩く事も良しとは思えない。
観て良かったとは思わないけど、過剰に道徳を感じる事もないけど、観た事で考えさせられる作品ではあるかなと思います。
なかなか胃がキューっと痛くなって、きっつい感じではありますが、如何でしょうか?