「表面をなぞるだけでは本当の良さは理解できない」羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来 さへいじさんの映画レビュー(感想・評価)
表面をなぞるだけでは本当の良さは理解できない
超遅ればせながら、ようやく観に行きました。評判がすこぶる良かったので期待していたのですが、その期待をはるかに上回る出来の良さ、素晴らしい作品でした。
ここのレビューを見ても、おおむね好意的で高評価が高く、共感できる指摘も多い。一方で、「ジブリや日本アニメのパクリ」「自然との共生の困難さといったストーリーも既視感があり、ありきたり」といった意見も散見される。
日本アニメに親しんだ人がそう感じるのは確かにわかるし、事実私もそう思う面はある。
けれども、この作品を讃えるべき点は、表面上のストーリーやアクションシーンのみにあるわけではないと見る。
「羅小黒戦記」の最大の素晴らしさは、主人公・小黒が他者との触れ合いを通じて、信頼や友情を育み、成長をしていく過程を、驚くほど丁寧に描き切った点にある。
特筆すべきは、ムゲンを敵視していた小黒と、小黒を救いたい気持ちを胸に秘めるムゲンとの、些細なやりとりのひとつひとつ。表情の付け方や変化、ちょっとした仕草、それらのどれもが手を抜くことなく、繊細かつ、わかりやすく描写されているのだ。
この地味な芝居や描写の積み重ねがあったからこそ、小黒とムゲンとの間に友情や親愛が生まれることに必然性と説得力が増してくる。結果、あのラストシーンのとめどない感動につながってくるのだ。
言ってしまえば、ラストで小黒がどんな選択をしようが、ムゲンがどんなセリフを言おうが、そこで観客が感動するのは、もう決まっていたのである。ふたりの間に揺るぎない愛情が育っていたことを、観る人はみな、十二分にわからされていたのだから。
ストーリーが奇抜だったり、バトルシーンが凄かったりするだけでは、人はなかなか感動しない。やはり人は、「人の気持ち」に心を動かされる。
その「人の気持ちと心の動き」をアニメーションで描き切ることに、見事に成功したのが「羅小黒戦記」であり、この作品をもっとも評価すべき点はここにあるのだ。
金をかけた派手なバトルや奇抜な設定で驚かせるのではなく、人間を丁寧に描いて感動を呼び起こすアニメを、たった50人のスタッフで完成させたことに驚きを禁じ得ない。物語の本質を理解し、それを効果的に描写できる力量を持った、若いクリエイターが中国にたくさん出現しているという実態に対しても。
日本のアニメ業界もうかうかしていられませんね。同時に、こういう作品を見せられると、日本と中国も、どうにかわかり合えないものかと願わずにはいられませんでした。