劇場公開日 2021年2月11日

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春江水暖 しゅんこうすいだん : 特集

2021年6月25日更新

ファスト映画の対極にある傑作!
“映画の豊かさ”味わう傑作…自宅で極上の映画体験を
現代の山水絵巻のような映像美で展開する大家族の物語

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最近劇場公開された話題作を、月会費なしで自宅でいち早く鑑賞できるVODサービス「シネマ映画.com」。本日6月25日から「春江水暖 しゅんこうすいだん」の独占先行配信がスタートしました。

中国の新鋭グー・シャオガン監督の長編デビュー作で、2019年の第72回カンヌ国際映画祭批評家週間のクロージング作品。日本でも2019年の第20回東京フィルメックスのコンペティション部門で審査員特別賞を受賞しています。大河・富春江が流れる街・富陽の美しい自然を背景に、変わりゆく中国社会の大家族の四季を描いた人間ドラマの見どころを、作品選定メンバーが語り合いました。

7月15日までの期間限定で、本作がVODで見られるのはシネマ映画.comだけ。大河とともに流れるロングショット、困難を抱えながらも懸命に生きる家族の営み、さまざまなシーンから映画の豊かさを味わえる傑作です。是非この機会にご鑑賞ください。


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「春江水暖 しゅんこうすいだん」(2019年/グー・シャオガン監督/150分/中国)

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<あらすじ>

再開発のただ中にある杭州市の富陽地区。年老いた母の誕生日を祝うため、4人の息子や親戚たちが集まる。しかし祝宴の最中に母が脳卒中で倒れ、命は取り留めたものの認知症が進み、介護が必要になってしまう。

飲食店を営む長男、漁師の次男、ダウン症の息子を男手ひとつで育てる三男、気ままな独身生活を楽しむ四男ら、息子たちは思いがけず、それぞれの人生に直面することになる。


座談会参加メンバー

駒井尚文(映画.com編集長)、和田隆、荒木理絵、今田カミーユ


●ファスト映画の対極にある一作 注目は10分50秒間の長回しショット

和田隆 エドワード・ヤン、ホウ・シャオシェン、ジャ・ジャンクーの遺伝子を感じさせる新世代の才能ですね。

今田カミーユ 33歳の監督の長編デビュー作だというのも驚きです。

駒井尚文編集長 これは驚きました。オスカーを獲ったクロエ・ジャオもそうですが、中国にはすごい才能がゴロゴロいますね。

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荒木理絵 なんといってもあの長回しショットですよね! 川の流れのように画面がゆらゆらと風景を捉えていくところが圧巻でした。

駒井編集長 あの長回しはおもわず巻き戻して再見しましたww 青年が川に飛び込んでから岸に上がるところまでが3分、その後2人で歩いて船のデッキに上がるまで、合計で10分50秒ですよ。全カットドローンによる空撮のワンシーンワンカットですね。

今田 今話題のファスト映画の対極にある豊かな作品です。

和田 すごいですよね! 久々に映画的に興奮しました。

駒井編集長 バリバリのドローン案件ですね。ドローンの撮影は、ふつうは風景のみの場合が多いんですが、この監督は、人物が演じているシークエンスでもばんばんドローンを飛ばします。「マイクはどこにあるんだろう?」って考えながら見ていました。恐らく、撮影中はマイクを使わず、アフレコしてるのでしょうね。

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●キャストは“ノマドランド方式” 自然の美しさと人間の営みの対比にも注目

荒木 風景描写のスケールの大きさと本当に些細な「人々の暮らし」の対比が素晴らしかったです。役者さんは、監督の親族だったり、素人の方がほとんどなんですよね。それもすごい。

和田 出演者たちの顔もいいですよね。四兄弟とその妻はみんな監督の親戚です。四兄弟の母、おばあちゃんはエキストラや小さな役を経験していた女優ですが、ネット広告でこの役の募集を知ったそうです。孫娘は舞台女優で、夫となる教師とは実際のカップルとのこと。いやあ凄い!

駒井編集長 ああ、あんまり俳優ぽくないなと思って見ていましたが、素人さんなんですね。「ノマドランド」と一緒だね。

今田 監督の地元と家族への愛が伝わってきました。

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和田 舞台となる大河・富春江が流れる街・富陽は監督の故郷だそうです。

駒井編集長 山水画の話が出てきますよね。中国人は昔から山と水のある風景を描いてきたんだ、的な。中国の映画監督の根底に流れている共通の美意識をひと言で表現していて、非常に納得しました。クロエ・ジャオも同じだなあと。

和田 中国山水画の傑作「富春山居図」から監督はインスピレーションを受けたそうで、「富春山居図」は富陽で描かれた絵画とのこと。

駒井編集長 なるほどねえ。これは、映画館で見たかった1本でしたね。2作目は映画館に行こう。エンドロールで、「1作目終了」って字幕が出て驚きました。3部作の1作目なんですね。

今田 中国版、ベルイマンの「ファニーとアレクサンデル」みたいな家族サーガになるのでしょうね。

和田 本作は2年に渡る撮影期間の後、完成したそうです。

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駒井編集長 お母さんと、4人の息子の話じゃないですか。一人っ子政策だったはずなのに、4人も子どもがいるのはちょっと不思議に思いました。

今田 軍人などには特例があったと、中国の方から聞いたことはあります。この家族の場合はどういうことなんでしょうね。

駒井編集長 罰金を払えば2人以上も大丈夫という話も聞いたことがあります。お金の話ですが、父親が、結婚相手に「月収はいくらだ?」「家を買うお金は貯めてるのか?」とズバズバ聞いたり、この映画には、お金の話がやたら出てきます。かなり金額が具体的に出てきますが、現在1元は17円なので、是非覚えておいて、見て下さい! もっとリアルに感じますよ。

荒木 「あの家は安かったのに高くなった!」「早く買っとけばよかったのに!」みたいな話もしてましたね。

今田 悠久の自然の美しさと、そういったリアルな人間の営みの対比が本当に面白いですよね。

荒木 古くなった建物が取り壊されているシーンがノスタルジックで良かったです。生活の痕跡が生々しくて。そこもまたフワーっと横にカメラが流れるんですよ。素敵です。


●ここまでの“アート映画”に製作費が集まる理由は? キーワードは“投資”

和田 それと実際、富陽は2022年にアジア競技大会の開催が決まっていて、街の開発が進んでいるので、お金がうごめいているのかもしれません。そういったことも話に反映しているのでしょうか。

駒井編集長 ああ、なるほど、そういう事情もあるのか。私は、こんなプライベートな映画なのに、どうやって製作費を集めたんだろう?って不思議でしょうがなかった。自治体とかが助成してるんでしょうね。

今田 以前、ベルリンで賞を獲った「薄氷の殺人」のディアオ・イーナン監督が来日した際、「中国の市場が大きくなって、余ったお金を不動産などのほか映画に投資する人が増えた」「国営の映画会社がアート系の映画館を中国各地に作るという政策を打ち出した」とインタビューで語っていました。

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駒井編集長 なるほど。中国もお金が余ってて、映画も投資先の一つなんですね。しかし、こういったアート映画が大きなリターンを生むとも思えないんだけどなあ。海外で高く売る作戦なのかも。ちょっと調べてみたいテーマです。

荒木 私は最近、エグい告発系のドキュメンタリーばかり見てたので、中国のこういったアート映画を見て落ち着きましたww


●実は「スター・ウォーズ」みたいな映画 3部作の行方を予想する

駒井編集長 さて、「Part2」がどういう展開になるか、少し予想してみましょうか。若い夫婦の生活を追う、というのがマストですね。

和田 そうですね、四兄弟のその後と、やはり孫娘夫婦の話がメインですかね。私は四男の、少し悪な雰囲気になっていた意味深なシーンが気になっています。

駒井編集長 四男は暗黒面に堕ちる? ダースベイダーに?

和田 いいですね!

今田 3部作中の2部でならありえそうですwww

駒井編集長 暗黒面に落ちて、上海あたりの黒社会でのし上がるww

和田 一気に作風変わりますね。任侠映画ですかww

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今田 そういったフィルムノワール感が入っているのもこの作品の面白さですよね。私は劇中の賭け事が気になりました。どんなゲームなんでしょうかね。

駒井編集長 あのギャンブルは何でしょう? 私も初めて見ました。ノワールの線はありますね。ノワールサーガだね。それにスター・ウォーズ風味が加わって……

今田 そういった人間たちの清濁併せ吞むのがあの大河という。

駒井編集長 ハリソン・フォードみたいな風来坊が、川から船で現れるww

今田 第2部ではそういったトリックスターの登場に期待したいですww

駒井編集長 新キャラは必要ですよね。強い新キャラ。

和田 監督の親戚の中にはまだまだいそうですね。

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今田 再開発後の富陽の変化、家族のレストランのその後も気になります。

荒木 子どもたち世代の話になるんですかね、スマホアプリでどうこうみたいな話も出てくるかも!

駒井編集長 街のさらなる再開発、どんどん膨らむ不動産バブル、儲けた人と損した人、新しい家族の誕生……早く2作目が見たいよねえ。

和田 監督は今も富陽に暮らしているそうなので、楽しみですね。

今田 上海近郊の街ということで蘇州を思い出しましたが、あまり観光地化されていないのがのんびりしていいなと思いました。コロナが収束して気軽に海外に行けるようになったら、いつか富陽に行って、川下りしてみたいです。

荒木 ほんとに! 私も実際あの風景を見てみたいです。

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