羊飼いと風船のレビュー・感想・評価
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遠くて身近な話
チベットの映画ということで、雄大な風景に浸る映画かと、期待して観に行きました。
その要素は確かにあったと思います。
チベットらしい風景に臨場感あふれる素晴らしいカメラワーク。
それら映像表現が映画の質を高めていると感じます。
しかしそれだけではなく意外にも身近なストーリーにとても感動させられました。
私はチベットのことはよく知りません。よって登場人物を俯瞰して眺めることになるだろうと考えていました。
しかしこの映画の構成要素は私にも分解可能であり、登場人物たちの姿は他人事と思うにはあまりにも身近なものだったのです。
種羊、人、風船、境遇。この映画におけるそれらの事は我々にもとても身近な事です。
それらを重ね合わせ見やすく伝える表現力。素晴らしかったと思います。
そこに社会制度や宗教哲学が加わり凄い展開を見せていました。
是非ご覧ください。
中華人民共和国の映画なので、もちろん検閲は経ているのでしょうが、このような宗教色の強い表現が特に弾圧されることもなく淡々と描かれ、日本にたどり着いたという事実に、ある意味、認識を改めさせられました。
草原で牧畜を行うチベット族の一家の生活を淡々と描いた作品です。
ストーリーは、あって無きがごとしでして、その点についての期待は早々に捨てるしかありませんでした。
この映画を通して現代のチベット事情を味わうという面でなら、意味のある作品だと思います。
西側報道では弾圧され尽くしているとされるチベット仏教が生活の中でまだまだ重要な役目を果たしていることや、そもそも映画がチベット語によって作られている、すなわち一定レベルでチベットの文化が尊重されているという事実を西側に訴えたいのかも知れません。
2014年に一人っ子政策は終わった中国ですが、やはり何人も子供を抱えることには罰則があるのだということや、コンドームは無料配布されるものだが、なかなか品薄で貴重な品物なのだということなどを伝えたいのかも知れません。
ま、それはそれとして、情報を捉えるための材料としてなら評価できるのですが、映画そのものとして捉えるなら、あんまり高い評価はできないな、というのが正直なところでした。
「国家政策」と「生物としての本能」や「信仰」
叙情詩の中の現実
映像が巧みである。
ことに最後、どこまでも青くて広ーい空に、赤い風船が飛ばされて流れていく‥
それを映画の登場人物等それぞれが、目をしぼめながら見上げるショット。風船は、それぞれの想いの象徴のようで、それを自分の手から離れていく、もしくは離していくイメージ。とても印象的だ。
種羊を返却して、酒を酌み交わすシーン、カメラは、座っている二人を下から撮りタルギュの手だけを映す。ギットリした脂身の細長い肉を握り、欠けた刃のナイフで削ぎ落として酒の肴として食うショット。
カメラワークが、時として新鮮なのだ。まるで、余韻ある叙情詩。そしてお経のリズム。ストーリー、映像のスケール感が大きい。
固定の価値観から抜け出せない、大地に生きる家族たちと、日々に生きている女、ドルカル自身に起きた思いがけない妊娠事実とのせめぎ合い。
チベットって鳥葬じゃないのか?とも思いながら、おじいさんは火葬され、その転生を信じている家族。
信心深いのはおじいさんだけだった様な気もするが、転生を信じているからこその、皆の想い、願いをドルカルに託す。
日々の労働、稼ぎなどを思案するドルカルの悩みに思い至らないタルギュ。一つの家族で、密接に生活しているのに分かり合えていない現実。
ドルカルに身を置いてみると、なんだかツライ映画である。それは同時にチベットが置かれている今の状況とも重なるのかもしれない。
ドキュメンタリーかと思うほど。
チベット映画初めてです。興味津々で鑑賞しました。
まず、土地柄?景色のせい?
いやいや、雄大な作品でした。
ストーリーも映像も人物も大河のように緩やかだけど強い。大らかな空に抱かれて生活するその様は憧れすら感じるほどでした。
人間の生死の隣に生き物の生死があり、大きく流れる民族の歴史、文化の大河のながれはありますが、ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。時代というものが大河に横たわりはじめます。
変わるもの変わらないもの。
変わる必要はある?ない?
日常を描きながら移りゆく生活やその背後にあるものを
切り取り、これは、これだけは変わっちゃいけない変わらないで欲しい、そんな作り手の魂を感じる作品でした。
ハンディカメラ多用だから?ワンカメショットが多いから?演者が素晴らしいから?
本作、ドキュメント見てる気がしました。
いやー。びっくりです。
特に、母親役の女優さん良かったなー。
ラストシーンは秀逸です。
オープニングからのうまい回収にもなってます。
(政策のシンボル的にうまく使ってますよね、アレを)
僕としては、どんな強い時代の風が吹こうがどこまでもどこまでも昇って行って欲しい。しなやかで強い魂として。
どこまでもたくましく。
国が違えば
異文化を見る
女性の視点から
雲と、風と、空気と…。
時代が変わりゆくチベットで…
一つの無駄もない
とても見応えのある作品だった。ラストシーンも素晴らしい。
途中までは、何の映画なのか、そして、なぜ舞台がチベットなのか分からなかった。
カメラが揺れて、見づらい映画だなあとも思った。
しかし最終的には、確かに、舞台は現代のチベットでなければならないことが理解できた。
また、ストーリーだけでなく、“映像”においても伏線があった。それらがすべて回収される、一つの無駄もない緊密な作りであることに気付くのだ。
すべての登場人物に、しっかりした役割があった。
昔堅気の老人。自分の行為の意味が分かっていない無邪気な少年。種付け羊のようなワイルドな夫。
そして何より、途中まで役割が全く不明だった“尼”となった妹も、実は重要な存在意義をもっていたことが判明する。「私のように、罪に苦しまないで。」
羊の放牧と種付け。
風船とコンドームと産児制限。
性に対する“恥の文化”。
俗世と出家と救済。
生と死と“転生”。
それらすべてが絡み合って、結末に向かっていく。
人々の様々な思いを乗せて、青空に飛んでいった赤い風船のラストシーンは、心にしみた。
それはただの風船
【空が近くにある場所、何もかも身近にある場所】
洗面器の水に青空が映りこむ場面があって、とても美しい。
時々映し出される空はとても近くにあるように感じられる。
風船も何もかも吸い込むようだ。
そして、このチベットの家族には、生も死も、日々の生きるための営みも、全て僕達より身近にあるように思える。
舞台となるチベットも、近代化や中国の社会システムから逃れることは出来ない。
この映画は様々な対比を通じて、チベットの家族を見つめたものだが、現代社会の女性の生き辛さも表しているように感じる。
仏教の転生を信じる夫や家族、そして尼になった妹に対し、常に現実に向き合おうとする妻。
妻は、何も考えずに過ごせるなら、尼にだってなりたいと思ってしまう。
子羊を産めない羊を食肉加工業者に売り払い、妻に子供も産むように迫った夫。
人は羊でないのだ。
近代化や、中国の人口政策など良し悪しではなく、これらを受け入れながら、翻弄され、繰り広げられる家族の葛藤を、優しい視点で捉えた佳作だと思う。
語学の勉強が必要かな。
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