「叙情詩の中の現実」羊飼いと風船 はなもさんの映画レビュー(感想・評価)
叙情詩の中の現実
映像が巧みである。
ことに最後、どこまでも青くて広ーい空に、赤い風船が飛ばされて流れていく‥
それを映画の登場人物等それぞれが、目をしぼめながら見上げるショット。風船は、それぞれの想いの象徴のようで、それを自分の手から離れていく、もしくは離していくイメージ。とても印象的だ。
種羊を返却して、酒を酌み交わすシーン、カメラは、座っている二人を下から撮りタルギュの手だけを映す。ギットリした脂身の細長い肉を握り、欠けた刃のナイフで削ぎ落として酒の肴として食うショット。
カメラワークが、時として新鮮なのだ。まるで、余韻ある叙情詩。そしてお経のリズム。ストーリー、映像のスケール感が大きい。
固定の価値観から抜け出せない、大地に生きる家族たちと、日々に生きている女、ドルカル自身に起きた思いがけない妊娠事実とのせめぎ合い。
チベットって鳥葬じゃないのか?とも思いながら、おじいさんは火葬され、その転生を信じている家族。
信心深いのはおじいさんだけだった様な気もするが、転生を信じているからこその、皆の想い、願いをドルカルに託す。
日々の労働、稼ぎなどを思案するドルカルの悩みに思い至らないタルギュ。一つの家族で、密接に生活しているのに分かり合えていない現実。
ドルカルに身を置いてみると、なんだかツライ映画である。それは同時にチベットが置かれている今の状況とも重なるのかもしれない。
2年くらい前に銀座で見たのですが、切実な話と思いながらも、女性にとって、切実なんだなぁと思いました。もう一度見たいと思います。
さて『この世界の片隅で』のレビューありがとうございます。先ずは『夕凪の街 桜の国』を読んでみてください。原作は
最終章だけで良いです。本屋で立ち読みも可能です。図書館での予約も可能です。
毎年、原爆の日があるのを理解出来ると思います。
はなもさんへ
コメント有難うございます。チベットの現状の問題を内包した人たちの切実な映像詩の美しい映画でしたね。生きて行く息苦しさを赤い風船に託したイメージのラストは、様々な想いを観る者に想像させます。それでいて綺麗な終わり方でした。ただ色んな映画を観てきた個人的な経験から、少年が赤い風船を貰い受けてからの流れが予想通りで、安易という言葉を使ってしまいました。皆が見上げることでチベットの雄大さが削がれたことが勿体ないと思ってしまいました。赤い風船からの鳥瞰ショットがあればと、無いものねだりですね。でも厳しい環境での映画制作と描かれた内容の真摯な表現には、一映画ファンとして敬服します。
コメントありがとうございました!
この監督のカメラワークは、若々しさと共にすでに老練なものを感じさせてくれて惹き付けられました。
また楽しいレビュー読ませて下さい。
きりん