劇場公開日 2021年1月22日

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「そこに風船が浮かぶという映像的な喜び」羊飼いと風船 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5そこに風船が浮かぶという映像的な喜び

2021年1月29日
PCから投稿

映画史を紐解くまでもなく、「赤い風船」('56)以来、映画と風船はスクリーン上で親密な関係性を育んできた。本作における最大の魅力が、独特の風土、伝統文化、三世代に及ぶ家族の相貌にあることは確かだが、そこに風船というアイコンがふわりと浮かぶことで、いつしかチベットの草原は我々にとって、すっかり「見知らぬ場所」ではなくなっている。一方、各シーンに長回しが多用されるのは新鮮な驚きだった。それも長閑で気の遠くなる長回しというよりは、思いのほか緻密で奥行きのあるものばかり。子役や動物がいる中でよく撮れたものだと感心する。巧みに練られた物語というわけではないし、まとまりいい結末が待ち構えるわけでもない。むしろ、伝統と近代化の波間に迸る表情、行動、感情をナチュラルに点描する感覚に近い。ふわり上昇していく風船のごとく、この草原に暮らす一人一人を照らし、俯瞰する。そんな柔らかいタッチが余韻を残す作品だった。

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牛津厚信