劇場公開日 2020年2月21日

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「エスニック舞踏を超えて」ダンサー そして私たちは踊った abukumさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5エスニック舞踏を超えて

2020年2月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ジョージア(旧名グルジア)の舞踏と音楽の魅力が堪能できる。
主役のメラブ=レヴァン・ゲルバヒアニ/Levan Gelbakhiani=が美しく、本物のダンサーだけに踊っているときの表情が素晴らしい。幼馴染・マリ役の女優= Ana Javakhishvili=と、恋人になるライヴァル・イラクリ=Bachi Valishvili=も魅力的なダンサー。

LGBTQの恋とすると今風だが、恋愛劇としてはオーソドックスな展開。
民族主義が復活し、経済が停滞することで内向きになった東ヨーロッパ諸国では、古い価値観がなかなか払拭できないようだが、恋が成就しないのは、必ずしも偏見だけではない。
やはり、貧困が不本意な未来を選択することにつながる。恋人よりもまず親を養うことを選ばざる得ない若者。社会が豊かになれば、マイノリティが生きる道も多様になる。

ネイションとエスニックの相克が、民族舞踏団にも及び、その関係性は興味深い。
若い芸術家にとって悩み多い状況だが、恋することによって獲得した踊りへの喜びはメラブをより強く、美しくした。ここが感動的。

そして、迷いを吹っ切ったラストの官能的なダンスがいい。これだけでこの映画は一見の価値あり。
型破りな踊りにエールを贈るのは幼馴染の美人マリ。恋人にはならなかったものの、やはりメラブの一番の理解者がこの女友達というところにも、大きな意味がある。8歳のときから一緒に踊ってきたんだもの! 性別や階級を越えて大切な友情。
孤立を恐れず巣立っていく若き踊り手には、友人、家族との確かな連帯がある。
監督の祖国への強い思いと若きジョージア人に対する愛が感じられる。

abukum