劇場公開日 2019年12月28日

  • 予告編を見る

「止められぬ暴走列車」今日もどこかで馬は生まれる Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0止められぬ暴走列車

2019年12月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

JRAの売上高は2兆7000億円。国庫納付金は約3000億円。入場者数は600万人。
これだけの経済効果のあるエンタメ産業は、もはや止められぬ“暴走列車”だ。
この“暴走列車”の動力源として、大量に消費されているのが「馬」。
年間7000頭がサラブレッドとして生を受けるが、天寿(20~30年)をまっとうできる馬は、ごくわずかだという。
必要な競走馬の数をはるかに上回っているはずだが、この競争こそが、さらなる資金と雇用を生むのだから、馬の「命」の犠牲の上に成り立っている“産業”である。

自分は競馬はやらないが、全国の競馬場まわりに精を出したり、「(馬が)かわいい~!」と熱狂する知人はいる。
“ペット感覚”は、日本人特有だそうだ。「光の当たるところしか見ない日本人」。

痛感したのは、馬は、牛・豚・鶏の“家畜”とは、根本的に異なるということだった。
最終的には、半分以上が“屠畜”されるようだが、元々は殺す目的で育てられていない馬が多いという、大きな違いがある。
競走馬としての活躍を期待して育てたのに、ダメになって、いつの間にか行方不明になって行く。
登場する関係者は、苦渋の表情を浮かべる。だが、次々と新しい馬が来るので、「割り切るしかない」。
しかし、彼らとて食卓では、牛肉や豚肉や鶏肉は食べるだろう。だから問題の本質は、“感情”であり、また殺生のシステムや必要性に係わると言える。

概要は、公式ホームページに詳しい。
濃密でありながら、テンポ良く進み、94分の間まんじりともせず見入ってしまった。
ダラダラとインタビューが続くタイプの作品ではなく、客観的な数字データも折にふれて示される筋の通った内容だ。
監督自身も競馬ファンのようで、2回のクラウドファンディングを経て作った映画だという。
今まで「知られていなかった世界に光を当てた」、素晴らしいドキュメンタリーだ。

Imperator